2008年(平成20年)12月1日号

No.415

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

安全地帯(233)

信濃 太郎

日展の「書」を見る。「切れば鮮血、打てば快音」なり

 日展の書の部を見る(11月20日・会期12月7日まで・東京六本木・新国立美術館)。いただいた入場券には有名な正岡子規の「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」(日比野光風)の俳句があった。「書」の入選作品952点。会場は25区画に分かれる。正午前に訪れたがかなりの人で、みんな熱心に見ていた、ひとりの高校生はメモすら取っていた。知人が入選したわけでもないので、のんびりと見て回る。「書」は書く人の性格や考え方を如実に示すと思っている。陸軍予科士官学校時代の同期生の区隊長への寄せ書きや最近霜田昭冶君から頂いた同期生の霜田君への寄せ書きの墨書きの文字を見ると、同期生たちの真面目な人柄や洒脱な気質など一人一人の性格がびっくりするほどよく出ている。会場に展示された作品はみな達筆で、中には強い個性を表す字体もあって楽しく拝見した。
 私を最も引きつけたのは「自詠 北京オリンピック」と題した座馬井邨さんの書『アナウンサー「北島強い無敵だ」と連続二冠のテレビに吸いつく』であった。書き出しがカタカナと意表を突く。『強い』と『二冠』がひときわ色が濃い。あの日、テレビに吸い付いた筆者の姿を、国民の姿を見事に表わしている。多くの人が著名な漢詩や和歌を選んでいるのに、テレビでの自分の感慨を『日展の書の材料になる』という判断は素晴らしく、得難いセンスである。瑞々しい若さすら感ずる。
 会場でほほえましく感じたのは『夕焼小焼 中村雨紅詩』の田岡正堂さんの書であった。「子供が帰った後からは圓い大きなお月さま小鳥が夢を見る頃は空にはきらきら金の星」一見平凡に見える字体だが落ち着いた味わい深いものが感じられる。バランスが良くとれて心の余裕が感じられる。
 ちなみに正岡子規は柿が大好きで「柿食ひの俳句好みしと伝ふべし」の句もある。今年の秋は豊作のようで、向かいに住む友人から庭に実った柿をたくさんいただいた。
 手にした『日展ニュース』(NO130)に杭迫柏樹さんの書いた『百一年目の日展』によると「切れば鮮血 打てば快音」―書は線の芸術とも言われ、その線に対して今、生きる自分の姿を生き生きと表現したい―という。私は座馬さんや田岡さんにそれを感じた。
 つまり書は自分の性格のほかに自分の生き方も表現されるというわけだ。なんとも恐ろしいと思う。