2008年(平成20年)11月20日号

No.414

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茶説

オバマ新時代の幕開けに思う
 

牧念人 悠々

 アメリカに初めて誕生する黒人の大統領バラク・オバマが就任早々やらねばならい緊急課題は金融危機への具体的な対応と政策の実現である。アメリカ発の金融危機故に各国との協調とともに、とりわけ日本と中国両国との連携は欠かせない。前途は必ずしも楽観を許さない。日本の本屋には早くもオバマの自伝が飾られ、世界恐慌の本が所せましと並んでいる。
 たしかに、オバマへの期待は大きい。「アメリカはすべてが可能な地であるということに疑問を抱く人や、建国の父祖達の夢は今も生きているだろうかと問う人がいるとすれば、今夜がその答えだ」(11月4日シカゴのグラントパークでの勝利宣言)。その勝利宣言をアメリカも、ヨーロッパも熱狂的に歓迎した。
 もちろんその登場を冷静に見る人もいる。「極左組織の闘士との交遊、その闘士が関わってきた組織とのつながりを指摘、多くのマスコミが見逃してきた。オバマ候補の見事な弁論と仕草は米国民を酔わせた。歴史上のあれこれの独裁者登場の場面を連想する」と言う識者が居る(11月14日、産経新聞・杏林大学客員教授・田久保忠衛)。キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長(82)は「世界が変わると信じるのは全く無邪気なことだ。現時点では米国の政権交代に過大な期待を抱くべきではない」と述べたという(11月14日・毎日新聞・メキシコ・庭田学)。
 産経新聞の小森義久記者はアメリカのマスコミは民主党寄りだから気をつけて読んだ方が良いと忠告するが、「2006年初め故マーチン・ルーサ・キング牧師の妻コレッタ・キングの葬儀に参加したとき、ロバート・ケネディの夫人エセル・ケネディに小声で『たいまつを受け継ぐのはあなたですよ』。『背筋がぞくぞくした』と、オバマが側近に語っている」というくだりを「ニューズウィーク」(日本語版11月19日号)で読むと、オバマは「そのような人物かな」と思う。テレビで見る印象は悪くない。
 アメリカは財政赤字である。アメリカはこの2ケ月間に110兆円のドル札を刷っている。2009年度の米国の国債発行額は150兆円に上るといわれている。オバマは「中流層向けの減税と大掛かりな公共投資」を公約に掲げている。そのようなお金はどこにあるのか。これからも大企業を国のお金で救済するようになると外債にたよらざるを得ない。それを引き受けるのは日本と中国だ。両国が米国債の最大保有国だ。それぞれ5000億ドルを超える。外貨準備高にしても1位の中国が1兆9000億ドル、2位の日本が1兆ドルである。一方日本も中国も米国市場に大きく依存する。とりわけ中国の経済成長は米国に負うところが少なくない。両国とも密接に協力せざるを得ない。だがアメリカの力が相対的に低下してきたことに間違いはない。「米国一極集中」はすでに幻想であった。いつまでもドルが基軸通貨とは限らない。ドル建ての金融商品が世界同時株安を招き、危機をもたらしたのだから別の基軸通貨が出てきてもよいであろう。国際通貨基金(IMF)にしてももともとアメリカを中心として動いてきたきらいがある。日本、中国、韓国、インドを中心として新たな基金を設けて緊急時に対応できるようなシステムもほしい。確かに「自由市場は経済繁栄のエンジン」であるが、あまりにも金融派生商品(デリバティブ)が肥大化しては手に負えなくなる。その市場、600兆ドルという。もう野放しにはできず、規制を加えざるを得ない。時代は大胆な変革を求めている。その課題を負わされたのがオバマである。「変革」を唱えるオバマには金融危機のほか景気後退・失業率の増加など国内経済の立て直しもある。既成の政治家ではない素質を持つオバマは歴史的な課題を背負って新しい時代の幕を開ける。