2008年(平成20年)5月20日号

No.396

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花ある風景(311)

並木 徹

「ショパンを聞く、甘く美しく、切なく・・・」

 久しぶりに関晴子さんのピアノを聴く(5月16日・東京・ルーテル市ヶ谷センター)。演目は、モーツァルト(ソナタ イ短調KV310),シューマン(子供の情景 作品15)、ショパン(24の前奏曲 作品28)。いずれも3人が20代に作曲した傑作である。快く聞いた。この日なぜか高音が心に響く。
 ショパンは生涯、ほとんどピアノ曲しか書かなかった。ピアノの詩人といわれる所以である。「24の前奏曲 作品28」はショパンの秀作の一つ。作家ジョルジュ・サンドとマジョルカ島で愛のひと時を過ごした時、できた作品である。時に29歳であった。24の前奏曲はagitato(はげしく)、lento(おそくゆっくり)から始まり、moderato(中くらいのはやさ)、allegro appassionato(はやく 熱情的に)で終わる。解説には「一曲一曲が異なる樂想を持ちながらも根底では歌に支えられており、最後には一つの大きな流れの中にある」とある。
 この前奏曲はエチュード(練習曲)と同じくショパンの独創の新形式である。ポーランド生まれのショパンは地方色豊かな舞踊のリズムも取りいれ、ピアノの世界に絢爛たる花園を作り上げた天才だと山本直純さんは激賞する。
 私は何故か「色は匂へど散リぬるを憂いの奥山けふ超えて浅き夢みしえひもせず我が世だれぞ常ならん」と、うろ覚えているいろはの50音の歌が口に出る。「い、ろ、は」言葉の基本。この言葉を紡いでよい俳句を作りたいと思う。舞台では関さんの白い指が鍵盤を時には強く、ときにはやわらかく包む。関さんの両腕が優雅に舞う。遅く、ゆっくり、生き生きと早く・・・即興曲、マズルカ(ポーランドの舞踊曲)ノクターン(夜想曲)が次々にあらわれては消えてゆく。関さんが紡ぎだす音の調べに吸い込まれてゆく・・・満員の観客は拍手をおしまなかった。
 この3月にいただいた手紙には「1年半ぶりです。気力、体力のコンサートが難しゅうございます。ユリ子さん(黒沼ユリ子さん)もがんばっておられるのですからと多少の無理をしてもあるがままに・・・を実践してまいります」とあった。その関さんは昔と変わらず品よく凛とした姿であったのは嬉しかった。

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