安全地帯(212)
−信濃 太郎−
「愛川欽也監督の映画「いつも二人」を見る」
愛川欽也監督の制作・脚本・主演の映画「いつも二人」を見る(4月10日・三越劇場)。愛川監督の映画はこれが三作目だという。愛川監督の映画作りのキーワードは「思いやり」「人を殺すシーンはとらない」の二つ。私はこれに「生真面目さ」を付け加える。西伊豆の居酒屋「恵子」を舞台に展開される中年男の純愛物語である。映画を見終わった後は、爽やかであった。
愛川欽也さんの熱心なフアンではないが、縁がないではない。市原悦子の「家政婦は見た」(24回)に出演(2006年3月4日・テレ朝日で放映)して、主役の大東百貨店の社長花山栄役を務めたとき、そのロケが都下のレストランの一室で行われたことがある。愛人役の松川美津(賀来千香子)の誕生パーティーのシーンの撮影取りであった。脚本家の前田孝三郎君の誘いで拝見したのだが、愛川さんは堂に入った社長ぶりであった。今年の3月に開かれた日本アイスランド協会の総会の席上、会員でもある愛川さんにこの話をすると「あの役は力を入れました。気に入った作品でした」と感想を語ってくれた。東映映画「トラック野郎」で名脇役を演じた、この人は何ごとにもゆるがせにしない人柄と感じた。
愛川監督の第2回作品「黄昏れて初恋」(2007年1時間56分)について映画評論家の水野晴郎さんは「忘れかけていた映画の楽しさと切なさがいっぱいあった」と感想を漏らしている。わたしも「いつも二人」を見て同じような感想を持つ。「我は問う恋の卒業ありやなし」と思わずつぶやいた。
映画では主人公善三(愛川欽也)は浅草の場末の劇場でストリッパーをやっている恵子(任漢香)に惚れ込み、通い詰めて会社を首になった末に、恵子のマネージャーになる始末。それでも恵子は少し危ない男とばかり付き合う。善三の発案で興行会社か離れた地方のキャバレーや温泉街で興行をして二人でもうけを山分けして暮らそうと試みるも失敗する。やむなく居酒屋「恵子」を出す。シェフは善三。お客に出す得意の料理は「なめろう」「パンパラ焼きハワイ風」「ジャージャー麺」の三つ。いずれもおいしそうに見える(400円のプログラム裏表紙にこの料理のレシビが紹介されていた)。パンパラ焼きは小麦を使わない。 山芋を使うのがミソである。山芋をすり下ろしたものに、みじんぎりにしたタマネギ、火を通してひやしておいた挽肉、それらを混ぜ合わして中火のフライパンで焼く。それを裏返してとろけるチーズをのせる。チーズが溶けたら出来上がりである。西洋お好み焼きである。具を和風にしてもいいのではないかとお好み焼きが好きな私は考える。
居酒屋の常連客の顔ぶれがいい。大工(赤塚真人)、町役場の助役(山口由里子)、農家(黒沢茂)、その彼女(永見朱)、消防署員(岩沢亮司)ら。息の合った演技を見せる。恵子に暖かなまなざしを見せるのも快い。ここでも恵子の相手はヤクザ風の男(今野勝行)で、結局捨てられる。最後は二人は結ばれるが、ハワイへ新婚旅行に行く前に善三があっけなく倒れ、帰らぬ人となる。居酒屋の看板は「いつも二人」と書き換えられて再スタートする。料理は善三が作った三つの看板料理。常連客に恵子はいう。「私は善ちゃんの作っているところをしっかり見ていたので同じ料理が作れる」。本当に女性はたくましい。「善ちゃん・・・」という恵子の甘ったるい声が何故か耳に残る。 |