2008年(平成20年)2月20日号

No.387

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安全地帯(206)

信濃 太郎

東京芸大生の「モーニング・コンサート」を聞く

 「若き芽の高からかな音や春近し」―東京芸大、奏楽堂で聞いた尾高忠明指揮の「第15回モーニング・コンサート」(開演午前11時)にこのような句が浮かんだ。ほのぼのとした気持ちになった。はじめは同大4年生、竹山愛のカレヴィ・アホ「フルート協奏曲」。K・アホは現代フィンランドを代表する作曲家である。交響曲は14曲、協奏曲は12曲もある。「フルート協奏曲」はフルート奏者、シャロン・ベザリーに捧げられたもの。すでにベザリーが「東京サントリーホール」でこの曲を演奏している。それにしても難しい曲である。よく竹山愛が選んだと感心する。彼女自身「フィンランドの広大な自然を思わせるこの曲の調べを観客席に向かって大きく広がせればと思って選曲した」という。
第1楽章、フルートは囁くごとく入る。音は高からず低からず叙情的である。雄大な感じがする。蕪村の句でいえば「菜の花や月は東に日は西に」というところか。曲はトーマス・トランストロンメル(スエーデンの詩人)の「悲しみのゴンドラ」と題する俳句風の作品をヒントにして生まれたというから当たらずとも遠からずであろう。
第2楽章、私は荒れる北欧の海を連想した。そこにフルートが流れる。この日のために新調した青いドレスをまとった若き妖精が奏でる調べは赤糸で刺繍を織るようであった。
エピローグは私の瞑想のうちに終わった。
「稲づまや浪もてゆえる秋津しま」(蕪村)
竹山愛はさらに大学院に進み精進するという。いつまでも今日のような挑戦する気持ちを忘れないでほしいと願う。
次が同大3年生の津島圭佑のL・V・べートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58」。ものの本によれば、当時ベートーヴェンは「永遠の恋人」とのロマンスに酔いしれ,曲調も幸福感に溢れ、明るく、春のように燃えていたという。
 津島圭佑は九州交響楽団、読売日本交響楽団との共演もしている。ピアノ演奏は見事であった。この若さで鍵盤と喧嘩せず、楽しんでいるのはすごい。同学の友達や先輩で編成されたオ−ケストラの演奏する中、孤独で瞑想的なカデンツァは心に響いた。
 津島圭佑はこれから人間を鍛えることだ。竹山愛といい、津島圭佑といい、将来性十分である。二人の名前を記憶にとどめておこう。

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