|
愛知県瀬戸市の、猿投山麓にある海上の森は、名古屋市近郊にある最後の広大な里山です。ここは東海地方にしか生息していないシデコブシをはじめとした貴重な生物が見られ、野鳥の種類も多い豊かな自然の宝庫です。現在、21世紀万国博覧会の開催予定地とされ、跡地利用としての都市化計画とともに、この場所の自然環境に影響を与えようとしている問題が起きています。ではどんな所なのか、トピックスなど踏まえてお届けします。(図は図上をクリックすると大きくすることができます) 自然通信(9) 雨の多い日がずっと続き、そのまま梅雨入りの形となってしまいました。森の木々は新緑から青葉うっそうとした姿に変わりました。あちこちでキビタキが「ポッピッピルル、ピックルル」と唄うのがよく聴かれます。今年も鮮やかなオレンジとイエローと黒の姿を見ることができましたが、相手は「バチッ、キュルル」と警戒音を出してきました。私は彼のテリトリーにお邪魔している身なので、早々に引き上げます。ホトトギスもようやく渡ってきました。ヤブサメが虫のような声で「シシシシシ・・・」と鳴いています。いよいよ夏です。 6月18日、海上の森の湿地を訪ねました。日本で一番ちび助なトンボ、ハッチョウトンボがもういます。雄は真っ赤な赤。雌は黒と黄の縞模様。それぞれ草の上に止まり縄張りを主張しており、時々均衡を崩した隣のものとおっかけっこをしています。湿地の水のある所にはモウセンゴケが、やや乾いた所にはトウカイコモウセンゴケが花を咲かせています。いずれの生物も、小さく、痩せ地であるがそれゆえに、また水が森から供給されるがゆえに存在する湿地という環境だからこそ生きて行けるのです。しばし腰をかがめて生物の目線で様子を観察します。(注:湿地の環境はとてもデリケートなので、草の生えている所や、湿地内に踏み込んだりしないようお願いします。)湿地から尾根沿いへ出て、やがて鎌倉の頃に使ったと言われる、瀬戸物を焼いた古窯跡を通ります。この森にはいくつかの窯跡や、古墳が見付かっているようです。今も人が住んでいる里にでると、田んぼの畦道でノアザミやウツボグサの花が出迎えてくれました。 森に訪れる多くの人は必ず立ち寄る通称「瀬戸大正池」へ行きます。景色だけではなく、他の様子も見てみましょう。池の水際には、後ろ足も出来た者もいる、巨大なウシガエルのオタマジャクシが沢山、休んでいます。魚のオイカワも泳ぎ回っています。良く見ると、赤い婚姻色に変わった雄の姿もあります。池に流れる川の中の流木の陰には、雄と雌が一匹ずついました。水面上ではクロイトトンボのペアが産卵中です。森には次世代の命が生まれようとしています。 今年は花暦の予測がまるで立たず、戸惑います。海上の森では、ササユリは5月末あたりにはもう終わってしまったそうです。所が渥美郡の田原町では、6月12日に咲いているのを私は見ています。普段ならこちらの方の暦が早めなのですが。また、海上で8月から9月にかけて咲くヤマハギが所により咲いているのです。東三河でも、秋のノコンギクやアキノキリンソウの花を見つけ、驚いています。ササユリの話ですが、海上では人目に付く道沿いでは採取の対象とされてしまい、5年ほど前と比べてすっかり少なくなってしまいました。栽培しても育つことは殆どないそうです。彼らも生態系の輪の中の一員です。遠くからでも自然を訪ねることが可能になった今、現代の日本人と自然との付き合いかたを一度見直す時に来ているようには思いませんか? 「海上の森は自然の宝庫」一体どんな所が?と聞かれれば、私はこう答えるでしょう。「希少な生物がいるから、というのみではなく、森の鳥や植物や水辺の生物、虫たちの生き様、暮らしの営みが、見ようと思えばあらゆる場所で見られる、身近では数少ない場所なのだから」と。
トピックス
このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。 |