1998年(平成10年)7月10日(旬刊)

No.45

銀座一丁目新聞

 

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海上の森
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 愛知県瀬戸市の、猿投山麓にある海上の森は、名古屋市近郊にある最後の広大な里山です。ここは東海地方にしか生息していないシデコブシをはじめとした貴重な生物が見られ、野鳥の種類も多い豊かな自然の宝庫です。現在、21世紀万国博覧会の開催予定地とされ、跡地利用としての都市化計画とともに、この場所の自然環境に影響を与えようとしている問題が起きています。ではどんな所なのか、トピックスなど踏まえてお届けします。(図は図上をクリックすると大きくすることができます)

自然通信(9)
夏の海上の森

牧野 紀子(愛知県)

 雨の多い日がずっと続き、そのまま梅雨入りの形となってしまいました。森の木々は新緑から青葉うっそうとした姿に変わりました。あちこちでキビタキが「ポッピッピルル、ピックルル」と唄うのがよく聴かれます。今年も鮮やかなオレンジとイエローと黒の姿を見ることができましたが、相手は「バチッ、キュルル」と警戒音を出してきました。私は彼のテリトリーにお邪魔している身なので、早々に引き上げます。ホトトギスもようやく渡ってきました。ヤブサメが虫のような声で「シシシシシ・・・」と鳴いています。いよいよ夏です。

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キビタキ

ハッチョウトンボ

 6月18日、海上の森の湿地を訪ねました。日本で一番ちび助なトンボ、ハッチョウトンボがもういます。雄は真っ赤な赤。雌は黒と黄の縞模様。それぞれ草の上に止まり縄張りを主張しており、時々均衡を崩した隣のものとおっかけっこをしています。湿地の水のある所にはモウセンゴケが、やや乾いた所にはトウカイコモウセンゴケが花を咲かせています。いずれの生物も、小さく、痩せ地であるがそれゆえに、また水が森から供給されるがゆえに存在する湿地という環境だからこそ生きて行けるのです。しばし腰をかがめて生物の目線で様子を観察します。(注:湿地の環境はとてもデリケートなので、草の生えている所や、湿地内に踏み込んだりしないようお願いします。)湿地から尾根沿いへ出て、やがて鎌倉の頃に使ったと言われる、瀬戸物を焼いた古窯跡を通ります。この森にはいくつかの窯跡や、古墳が見付かっているようです。今も人が住んでいる里にでると、田んぼの畦道でノアザミやウツボグサの花が出迎えてくれました。

 森に訪れる多くの人は必ず立ち寄る通称「瀬戸大正池」へ行きます。景色だけではなく、他の様子も見てみましょう。池の水際には、後ろ足も出来た者もいる、巨大なウシガエルのオタマジャクシが沢山、休んでいます。魚のオイカワも泳ぎ回っています。良く見ると、赤い婚姻色に変わった雄の姿もあります。池に流れる川の中の流木の陰には、雄と雌が一匹ずついました。水面上ではクロイトトンボのペアが産卵中です。森には次世代の命が生まれようとしています。

 今年は花暦の予測がまるで立たず、戸惑います。海上の森では、ササユリは5月末あたりにはもう終わってしまったそうです。所が渥美郡の田原町では、6月12日に咲いているのを私は見ています。普段ならこちらの方の暦が早めなのですが。また、海上で8月から9月にかけて咲くヤマハギが所により咲いているのです。東三河でも、秋のノコンギクやアキノキリンソウの花を見つけ、驚いています。ササユリの話ですが、海上では人目に付く道沿いでは採取の対象とされてしまい、5年ほど前と比べてすっかり少なくなってしまいました。栽培しても育つことは殆どないそうです。彼らも生態系の輪の中の一員です。遠くからでも自然を訪ねることが可能になった今、現代の日本人と自然との付き合いかたを一度見直す時に来ているようには思いませんか?

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モウセンゴケ(上)とトウカイコモウセンゴケ(下)

ササユリ

 「海上の森は自然の宝庫」一体どんな所が?と聞かれれば、私はこう答えるでしょう。「希少な生物がいるから、というのみではなく、森の鳥や植物や水辺の生物、虫たちの生き様、暮らしの営みが、見ようと思えばあらゆる場所で見られる、身近では数少ない場所なのだから」と。

 

トピックス

海上の森・万博問題第2次小委員会

 (財)日本自然保護協会(NACS-J)が「海上の森・万博問題第2次小委員会」を構成。6月1日に、愛知万博の環境影響評価実施計画書に対する意見書を(財)日本野鳥の会、WWF-Japanと共に提出しました。
 尚、NACS-JのHP、http://www.nacsj.or.jp/で意見書の全内容がダウンロード出来ます。一度覗いて見てください。(NACS-J、日本野鳥の会、WWF-Japanの各HPの案内は、4月のバックナンバーにあります。)

瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業及び名古屋瀬戸道路の都市計画に関する公聴会

 万博との関連事業「瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業及び名古屋瀬戸道路の都市計画に関する公聴会」始まる。
 6月7日、14日に当初より予定されていた公聴会が行われました。7日の公聴会では、122人もの公述申込を50人に絞られたことや、1人につき10分のみの時間しか与えられないことについて、紛糾となりました。そのため、愛知県は残りの72人にも公述する機会を設けるべく、7月18・19日に瀬戸市民会館3階大集会室で行うことが決まりました。開始時刻は午前9時30分より。(電話 0561-82-4191)
 但し、名古屋市の藤前干潟ごみ埋め立て問題の公聴会でも行われた質疑応答がされないことは疑問です。これまでの主な意見内容は、(本当はもっと多いのですが)

  1. 住宅事業が今採算が合わないのに行われようとしている都市計画への疑問
  2. 事業による財政負担への心配
  3. 行われたアセスメントについての不備。生物の保全のための移植への結論付けや代替案を検討しないのはどういうことか。万博との一体化したアセスを求める、など。
  4. 道路が出来ることで、生活環境に多大な影響が出ることが心配される地区の住民からの深刻な意見。海上の里に住む人を追い出しての住宅計画であること。
  5. 公聴会で述べられた意見は聞き置きではなく、計画原案に反映されて欲しい。公聴会を行うのが早すぎる。万博のアセスが終わってから、再度公聴会を行うべき。

  などです。これに対し、愛知県では公述意見の類似したものをいくつかまとめて、それに対する県サイドの考えを回答した文書を公述人に送る予定であるそうです。

他のHP案内
  
青山さんのHP「海上の森」(野鳥の会愛知県支部公認ページ)
http://www.met.nagoya-u.ac.jp/AOYAMA/nature/kaisho.html

今まで森で確認された野鳥たちのリストや森の風景などの写真が沢
山掲載されています。ここが都市計画にふさわしいものなのか、こ
の姿のまま保全するのが良いのか、良くご覧になって下さい。

上杉さんの「瀬戸市の住人のページ」
http://venus.synnet.or.jp/UESUGI/

 上杉さんは上記の公聴会にも公述人として意見を述べられました。そこでアセス不備に関する39の質問をしています。その原稿が、メニューの「万博関連」の中に掲載されています。こんなにも多くの不備があったのだと、驚きます。他にも色々な情報が掲載されています。

藤前干潟を守る会
http://www2s.biglobe.ne.jp/~fujimae

 愛知県の自然環境を巡るもう一つの大きな問題が、シギ・チドリの渡来が日本でも有数の干潟、藤前干潟のごみ埋め立て地計画です。「守る会」代表の辻淳夫さんも万博関連の都市計画の公述人として参加され、藤前のごみ埋め立ての代替地候補に提案している名港西5区と、木曾岬干拓を歴史的な「環境博」として成功させる舞台とし、海上の森と藤前干潟を保全し、観てもらう、持続型社会の創造へ転換する万博への代替案を述べられました。HPにもそのコーナーがあります。

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