2007年(平成19年)9月1日号

No.370

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追悼録(286)

心理学者・河合隼雄さんをしのぶ

  元文化庁長官河合隼雄さんは優れた心理学者であった(7月19日死去・享年79歳)。昭和37年にスイス のユング研究所に留学、日本人で初めてユング派精神分析家の資格を得た。ある時期ユング心理学に興味を持ち河合さんの著書をはじめユングに関する本が手元に12冊もある。とりわけユングの夢の分析に興味をひかれた。忘れられた心の断片≪影≫内なる異性像≪アニマ・アニムス≫母なるもの根元にある≪グレート・マザ ー≫など私たちが見る夢と大いに関係がある。
ユングは「夢はメッセージである」という。夢が何らかのことを夢を見た人に告げているという。また「夢は自作自演のメッセージ」ともいう。夢に良い夢も悪い夢もないと説く。たとえば子供が親殺しの夢を見てもそれは子供が自立しようとしている徴であるとする。ユングはフロイトと違って夢にブラスの面をあたえる。人に追いかけられている夢を見てもそれは今手掛けている仕事を時間通リにやれというメッセージではないかと説明する。
神話にも注目する.神話は整理され分化された人間の意識や合理的な思考では表現できないものごとの全体的なとらえ方を、イメージによって表現するもののように思われているとする。つまり夢の表現は広大な無意識の領域の出来事を神話や昔話のように、象徴的なものがたりとイメージの展開によってわしたちに告げるものであった。
河合さんと佐々木眞さんとのジョイントコンサートで河合さんのフルートを2回聞いた。ユングの話を直接聞いたことがない。それもユングに惹かれるのはユングが「人生の自然な終点は老いではなく叡智である」と言っている点である。「死は自己完結への旅である」ともいう。ユングに関する本はまだ多く読み残している。機会を見て読もう。「自己完結の旅」は長く果てしない。

(柳 路夫)

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