2007年(平成19年)8月1日号

No.367

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花ある風景(282)

並木 徹

お芝居「オセロー」に感あり

 「読むべきはシェイクスピアなり」と教えてくれた人がいる。シェイクスピアが紡ぎだし珠玉のような言葉があるだからであろう。また人生の真理もある。「さすがシェイクスピアは天才だ。諺だけで芝居を書いている」とロンドンで芝居を見たウェールズの農夫が言ったという「作り話」があるのもうなずける。
 演劇集団円公演・松岡和子訳・平光琢也演出の「オセロー」を見る(7月20日・東京新宿・紀伊国屋ホール)。オセロー(金田明夫)、その妻デズデモーナ(Romi Park)イアゴー(吉見一豊)キャシオー(木下浩之)らから次々に飛び出す名文句に引き込まれる。嫉妬とは何か?と我々に問う。シェイクスピア劇での嫉妬は「妄想」と言い換えると分かりやすく、その病状はイアゴーの表現によると「妄想の苦しみで気が狂うことになる」と言う(学習院大学・中野春夫)。この嫉妬により高潔なムーア人の将軍オセローと若くて美しい貴族の娘デズデモーナの幸せは悲劇と変わる。しかもその嫉妬は副官になれない逆恨みをするイアゴーの奸計によってつくられる。もっともらしい謀ゆえに人は信用する。イアゴーの言葉「嫉妬は緑色の目をした怪物で、人の心を餌食としてそれをもてあそぶのです」と言う。
 イアゴーの妻エミリア(三沢明美)のセリフ「嫉妬というものは、みずからはらんでみずから生まれる化け物です」そのようなものなのか。私は感心する。
イアゴーのたくらみで妻が副官キャシオーと不倫したものと信じ込みオセローは愛する妻を絞殺する。その直後イアゴーの悪巧みがエミリアの証言で明らかとなり、オセローは自分の過ちを知る。自死する前にベニスの政府にありのままに報告してくださいと願う。「賢明さに欠けたが、あまりにもも深く愛した男。容易に嫉妬に駆られないが、たばかれて前後の見境がつかなくなり・・・貴重な真珠を自らの手で投げ捨てた男」オセロの遺言のようなこの言葉は、7歳から幾多の戦場で武勲を立てたオセロー将軍の矜持を示すものであった。
訳者、松岡和子さんは「唯一,終始変わらないのは『貴重な真珠』たるデズデモーナの名声である」と言うが、私が感じたのは時代がいくらたっても人間の『愚かさ』は一向に変わらないということであった。

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