花ある風景(279)
並木 徹
雲南の棚田と少女と稲作文化
監督・章家端、主演・李敏の中国映画「ルオマの初恋」を見る(6月22日・東京・恵比寿・写真美術館劇場)。棚田の美しさに圧倒される。雄大な雲南の自然の中に少数民族・ハニ族が営々と築いた稲作文化・農耕儀礼がくりひろげられる。映画の舞台は雲南省元陽県。広州、香港から西へたどると、ハノイに注ぐ紅河につきあたる。このあたりが映画の舞台だ。標高1500から2000b。棚田はここ哀牢山脈南麓にそって広がる。「棚田はハニ族の化身である」と言われる景勝地である。
日本の棚田に注目したのは劇団「ふるさときゃらばん」の演出家・石塚克彦さんと写真家の英伸三さんで、1995年高知県檮原町で「第一回全国棚田サミット」が開かれている。その際、催された「棚田フォトコンテスト」には全国から2600枚の写真が寄せられ、日本人の棚田に対する関心の深さを伺わせた。棚田も日本農耕文化と密接につながっている。
ルオマは祖母(李翠)と二人暮らし。お婆さんは暗い部屋の中で黙々と機織りをする。温かくルオマの行動を見守る。写真家のアミン(楊志剛)との初恋さえ口をはさまない。ルオマの日課は朝、町で焼きたてのトウモロコシを売りに行くことだ(一本5角=日本円7円)。可愛い娘ということで観光客に写真を取られる。漢族のアミンは10本のトウモロコシの代金にヘッドホンステレオを置いていったことから知り合う。ヘッドホンステレオからはアルランドの女性歌手が歌う「カリビアン・ブルー」が流れてくる。彼女の表情が明るくなる。アミンの提案で彼女がモデルになり棚田を背景に観光客と一緒に記念写真を取る。撮影料金は10元。ぼろ儲けをする。おばあさんはいう。「ハニは人をだましてお金をとったりしない」。現実の世界はもっとひどい。牛肉に豚肉や鶏の肉を混ぜ「牛肉コロッケ」と平気で売る世の中である。
昆明へで稼ぎに行った友人の話から「昆明でエレベーターに乗る」のがルオマの夢である。昆明まではバスで8時間かかる。アミンが「乗せてやる」約束してくれたもののアミンが前からの恋人とともに昆明にいってしまったので実現せずに終わる。
田植え、水田での男女の泥の投げ合い、新米節(新嘗祭)、稲魂。稲作文化のルーツはこのあたりから来たのではないかという気もしてくる。「別れの酒」の風習は日本にあるのだろうか。結婚が決まった女性が元彼と酒ををくみ交わし、女性は手製の衣服などを贈り、元彼も銀の腕輪を送るというものだ。おばあさんの腕に光る腕輪は元彼のプレゼントであろうか。
出演者はアミン以外みな現地アニ族の人々だという。絶景の棚田を支えたものは少数民族の「素朴さ」であった。久しぶりにしみじみとした爽やかな映画を拝見した。 |