2006年(平成18年)7月1日号

No.328

銀座一丁目新聞

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花ある風景(242)

並木 徹

「地震カミナリ火事オヤジ」

  劇団「ふるさときゃらばん」の新作ミュージカル「地震カミナリ火事オヤジ」を見る(6月19日・東京・パルテノン多摩)。オヤジを除けば今、日本でしばしば起きている怖い災害である。テーマはその災害から住民を守る地域消防団の話。物語は山間の町、風神平消防団の分団長、川島勇造(谷内孝志)を中心にして始まる。53歳の勇造は火事のサイレンを聞けば真っ先に飛び出してゆく頑固で意地っ張りで心優しいオヤジ。それを温かく支える妻・真沙子(美咲歩)。そこへ真沙子の妹の由紀(小峰めぐみ)が夫・哲夫(板津淳)と息子(森田麻紗子)を残して転がり込んでくる。その原因はたわいないことだ。消防団員の哲夫が結婚記念日をすっぽかして嬉しそうに火事現場へ飛び出していったと言う。そういえば幕開けの消防団の中に一人子供が紛れ込み楽しそうにダンスをしていた。「結婚記念日」 私など覚えていない。そんなに重要なことか・・・。勇造は橋の袂で自転車に乗って颯爽とした真沙子さんを認め「この人がオレのお嫁さんだ」と心に決めた日が結婚記念日だときざなセリフを吐く。川島家の悩みは尽きない。ジイちゃん・保(小島茂夫)は家出するし、一流大学を出て商社に就職した長男、秀一(斎藤勝洋)は会社を辞めて裏山に松茸を復活させると夢のような話をする。日本の山は荒廃し松茸はどんどん減りいまや僅か120万トンしか産出しない。3600万トンを輸入に仰いでいる始末である。ワルガキだった次男健次(庄野久友)が女友達の皐(水香)をつれて東京から姿を見せる。テレビの端役に出演して町の人々の失笑を買う。もっといい役につくにはお金がいると金をせびる。皐は秀一に一目ぼれして風神平に住み着くことを決め、消防団・部長・萬徳(小山田錦司)妻澄子(税田幸子)に居候をする。しかも女性消防団を作ろうととんでもないことを言い出す。消防団の訓練風景は動作もキビキビ、号令も明瞭。ユーモラスな所作に笑いを誘う。見ていて心地良かった。
 二幕目。結婚相談所のシーンから幕が上がる。中村所長(大塚邦雄)の爽やかな弁舌で引っ込みじあんのジイちゃんが熟年の女性、橘慶子(坪川晃子)と結ばれる。孫の松茸作りが気に入り、ジイちゃんが松茸作りの名人と知って惚れこむ。相談所長の大塚さんのソロがきれいに聞こえる。意外と歌が上手いのに驚いた。「慶子、慶子」とのろける小島さんがスマートなのにもびっくりした。二人は川島家へ戻り仲良く松茸つくりを始める。
 皐提唱の女性消防団の話は着々と進み、真沙子も由紀も澄子も地域の女性軍が参加する。反対の勇造は拗ねて家に閉じこもる。女性消防団の訓練も男性消防団員の指導で見事に成長、発足する。消防団の活動と苦労を知った由紀は哲夫と仲を戻す。一仕事を終えた皐は東京へかえると言い出す。
 もじもじしている秀一に閉じこもっていた勇造が秀一に「皐を東京へ返していいのか」と叱咤激励する。地域も家庭も矛盾だらけだが、そこで生きて行く人々はお互いに心を許し、心を寄せ合い、災害には力を合わせて闘ってゆく。やはりなんといっても「オヤジ」が一番しっかりして欲しいと思う。東京公演は12月6日から17日まで池袋・東京藝術劇場で行われる。

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