2005年(平成17年)7月10日号

No.293

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安全地帯(115)

信濃 太郎

 メキシコの小さな音楽家達に幸あれ

 世界的なヴァイオリン演奏家、黒沼ユリ子さんがメキシコで開いている音楽院「アカデミア・ユリコ・クロヌマ」の生徒12名を連れて来日、7月2日から16日まで各地で感謝の演奏会を開いた。1980年メキシコ市の一角で産声を上げた小さな音楽院が今年で創立25周年を向かえた。この間日本から100丁に及ぶ「不要になった小さなヴァイオリン」が贈られたり、1985年秋のメキシコ市の大地震には1千万円の義捐金がとどけられたりなどした。また音楽を通じて日本の子供達との友好コンサートも開かれている。黒沼さんがメキシコの地に蒔いた小さな種はいまや大きく花開いた。教え子達が国際的に活躍し、メキシコの楽壇で重要な位置につくなどスクスクと成長している。
 黒沼さんとの付き合いは「サンデー毎日」のデスク時代、その著書「アジタート・マ・ノン・トロッポ」(未来社)を書評したことから始まる。1987年春生徒達を連れた第二回訪日演奏旅行(沖縄、九州、山口)の際はたまたま毎日新聞西部本社にいたのでお手伝いをした。山口では泊まった旅館のお風呂が五右衛門風呂であった。子供達はおおはしゃぎであったが、上がった後の風呂の水が牛乳のように白くなっていた。後で聞くと、外で体を払うことを知らない子供達が中で石鹸を使用したためでみんなで大笑いをしたことがあった。
7月6日夜、東京・池袋の東京藝術劇場大ホールで12人の生徒や先生の演奏を聞く。指揮者であり作曲者であるホルヘ・コルドバの「アステカの神話」「音楽、歌、踊り。黒いテスカトリポッカ神からの贈り物」(メキシコの神話より)は興味深く聞いた。ほら貝、細長い木魚のような木製打楽器(テポナスト)、乾燥させた豆科の大きなさや(ヴァイナス)、土製の素焼きの笛など奇妙な楽器が奏でる調べは、原始の世界へ誘う。11歳のフアンカルロス・カスィーヨのヴィオリン独奏、バルトークの「ルーマニア民族舞曲集(ヴィオリンとピアノのために)はラファエル・ゲーラのピアノに合わせて堂々たる落ち着いた演奏であった。将来が楽しみである。ともに「アカデミア・ユリコ・クロヌマ」出身で、ともに「アカデミア〕の先生として後進を指導している渡辺りえとカルロス・ロットのサラサーテ作曲「ナヴァラ」(2つのヴァイオリンとピアノのために)は息の合った演奏を見せる。様々な音を見事に紡ぐ。艶やましいぐらいである。絶妙な間を感じた。まさしく「魔」であった。
 2部には皇后様がおいでになられ、日本メキシコ友好合奏団の演奏を鑑賞された。メキシコの子供達にとって良い思い出になったことであろう。

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