2004年(平成16年)5月10日号

No.251

銀座一丁目新聞

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安全地帯(76)

−信濃太郎−

戦死者の顔写真と名前は何を訴えるか
 

 アメリカのABCテレビのニュースショー「ナイトライン」がイラクで戦死した700人をこえる米兵の顔写真を流し、名前を読みあげた(4月30日夜)。いいアイデアである。一見無味乾燥のように見えるが、奥が深い映像であった。40分にわたって読み上げたキャスターは「番組の狙いは戦争反対でも戦争支持でもない」といっているそうだが、狙いは反戦であると思う。そうでなければ、賛否両論のコメントをつけるべきである。新聞で企画してみても面白い。700人を超える戦死者の顔写真を一挙掲載する。それに各人の軍人志望の理由、戦死の日時、場所、戦死の状況、家族関係を付記すれば、全調査「イラク戦争」となる。かって交通事故死が激増したとき、外国の雑誌が年間の事故死者数だけの人間を寝かして並べた写真を掲載した。なかなか迫力ある写真であった。何の説明をしなくてもこれは明らかに交通事故防止のキャンペーンになる。今回の場合、戦死者を政治的に利用して反戦意識をあおっていると批判されても仕方あるまい。
 第二次大戦に出征した吉田嘉七さんはこんな詩を残す。タイトルは「仕事」「来る日も来る日も線を引く/線で消すのは戦友の名前/消しても消しても消しきれぬ/こんなにも沢山あった人間の名前/さよなら鈴木、おわかれだね伊藤/俺はもう一度お前を殺す/消したあげくのお前の先に/家族の住所を書かねばならぬ(戦死者名簿整理)。 」この作は昭和18年4月から9月までのフイリピン戦場のもである。「消しても消しきれぬ」戦友の名前に、はかりしれない吉田さんの思いがにじむ。
 意味のなさそうな映像。死に直面した無名の兵士の詩。意外と読者、視聴者に訴える力が大きい。

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