2004年(平成16年)5月10日号

No.251

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(14)

―天皇賞(春)の波乱― 

  今年のキーワードは「異常」「異常現象」だと考え、この欄でも、そのように書いてきた。事実、さまざまな分野で、普通の常識では考えにくいことが起きている。差し当たって競馬の世界に眼を向けても、そのことがいえる。例えば、久しく続いてきた「西高東低」の傾向も覆る、と見るのもその1つ。事実、4月の桜花賞、皐月賞、さらに5月に入っての天皇賞と、関東馬の活躍が目覚しい。それだけではない。関西の有力勢があえなく敗退するのだから、レースは波乱に満ちている。皐月賞を制したのは関東のダイワメジャー(10番人気)だったが、天皇賞を制したのも関東のイングランディーレ(10番人気)。ともに人気薄で波乱となっている。そして、その波乱の度合いは、天皇賞のほうが大きかった。
 レースはペースと展開によって大きく左右される。皐月賞もそうだったが、天皇賞の場合は、さらに輪をかけて極端だった。まず、大方の予想に反して、イングランディーレ(横山典騎手)が単騎の逃げ作戦に出た。逃げ・先行に有利な内枠を引いた他馬も、なぜかスタートから抑えたので、ペースは遅く、イングランディーレにとっては楽な展開となった。差が広がるばかりなのに他馬が仕掛けないのだから、ファンもただ呆れるばかりの単騎の大逃走になってしまった。
 関西の有力勢ははというと、1番人気のリンカーンは13着に沈み、昨年の2冠馬で2番人気のネオユニヴァースは10着に敗れた。そのため単勝配当は7100円(76年の12番人気エリモジョージの8190円に次ぐ高配当)。馬連複は3万6680円、馬連単は7万5650円で、どちらも春の天皇賞史上最高の配当。3連複は21万1160円の超万馬券になるという大波乱だった。
 このような波乱となった原因は、ペースがスローになり、逃げ馬にとって楽な展開になったことにある。スタート後の1ハロンは13秒0、前半1000メートルが61秒9.こんな遅いペースは、格下の条件クラスのものだ。それにしても、そんなペースや展開になるのを見越したように、イングランディーレは逃げの手に出た。厩舎側としては、その作戦しかなかったのだろうが、作戦はまんまと成功した。横山騎手も巧く乗った。
 ところで、そんな逃げ作戦を予想し、この馬を推奨したスポーツ紙が1紙(スポニチ)あったのには驚いた。恐らく丹念な取材による情報に基づいての予想だろうが、見事なものだ。大量の情報が流される時代だが、その取捨選択を誤ると、判断を間違えることにもなる。そんなことにも、改めて気付かされた人も多いだろう。天皇賞は、さまざまな示唆を含んでいる。

( 新倉 弘人)

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