これまで特許とか、実用新案とか、意匠登録とかの言葉は身近でも見聞きしていたが、それらの申請を本人や会社に代わって代行する人たちのことを弁理士と言うことなど、全く知らずにいたために、新しい仕事に就いて早々大失敗をやってしまった。
3月末に大きなイベントがあって、それに向けて2月からダイレクトメールや招待の通知を出していた時、その中のひとつにビルの名前だけで事務所名が無いのがあり、上司に尋ねると「べんりやさんなのよ」と言う。「べんりって、あのべんりですか?」「そう、べんり
よ」。ところが翌日、その事務所からFAXが来た。
「私は便利な男ではありません!!」
上司は早速電話を入れて「慣れない者がおりまして大変失礼いたしました」と平謝り。
この件で肩書きや名前にすっかり神経質になってしまい、電話でのチケットの申し込みにも、より慎重になってしまった。
「かしのさんですか?どんな字を書いたらよろしいのでしょうか?お菓子の菓子に野原の野ですか」初めて耳にする珍しい苗字、間違ってないかしら、と受けてしまってからも自信が持てない。
「樫の木の樫じゃないの、樫野さん」と外野もやかましい。
でも確かにおかしのかしと言った、樫の木ならおかしとは言わないだろう、もうこうなったらチケットに同封する郵便局の払込み用紙が戻って来るのを待つよりない。何日かして待ちに待った振込み票が来て、氏名の欄に「菓子野」とあった時には真実ほっとした。
前述の弁理士さんには、その後商標登録のことでお世話になっているが、直接お目にかかってはいない。いつかお詫びをしなければと思いつつも、宛名を書く度に笑いを堪えら
れない。
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