1999年(平成11年)3月1日

No.67

銀座一丁目新聞

ホーム
茶説
映画紹介
個人美術館の旅
ニューヨーク便り
ゴン太の日記帳
海上の森
告知板
バックナンバー

茶説

内部告発のすすめ

牧念人 悠々

  「見ざる聞かざる言わざる」という。人の悪いところを見ず、聞かず、そして言わない。「くさいものに蓋」という表現もある。その場しのぎであり、先送りでもある。日本人の生活の知恵でもあり、悪いクセでもある。もうそろそろ、考え直してもよいと思う。

 ソルトレークシティの冬季オリンピック誘致をめぐる買収工作の発端は、「内部告発」である。

 地元テレビ会社の記者が、国内オリンピック委員会の副会長からワシントン大学に留学しているカルーメンのIOC委員(故人)の娘さんあての手紙(草案)のコピーを入手したことから問題化した。

 その手紙によれば、予算縮少の中、奨学金付与を続けること困難になったとあった。つまり、オリンピックを誘致するために、IOC委員の一人に贈った「奨学金」という名の“ワイロ”を示すものであった。

 この内部告発によって、ソルトレークシティのオリンピック誘致をめぐる不正が明るみに出された。

 これにくらべて、長野冬季オリンピック誘致をめぐる疑惑解明は、ばかばかしくない。「見ざる聞かざる言わざる」か、一人の内部告発者も出ないのか。

 日本は「内部告発」が育たない土俵のようだ。最近、東京地裁は、「内部告発者」に賠償を命ずる判決を下した。

 元役員が「会社の不健全な経営是正に役立つ」と考えて、会社の内部情報を月刊誌と週刊誌に洩らした。これに対して会社側は「損害を受けた」として訴えた。

 筆者も会社をやめたあと、会社の悪口を書いたり、不利益なことを公表するのは“男の美学”に反すると肝に銘じている。しかし、会社のしていることが、法に違反したり、はなはだしく公共の利益をそこなったりしておれば、告発してもやむをえないと考える。

 この裁判での裁判長の見解は「在任中に知り得た会社の内部情報については、退任後も守秘義務を負う。これに反した情報の漏えいは違法である」というものであった。

 ワイロが横行し、不正行為がはびこる現在、「内部告発」は、これらの悪をあばく大きな武器である。

 

このページについてのお問い合わせは次の宛先までお願いします。
www@hb-arts.co.jp