2002年(平成14年)11月20日号

No.198

銀座一丁目新聞

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競馬徒然草(29)

−記録と記憶− 

 「記録」という言葉を辞書で見ると、3つの意味がある。@後々のために書き付けること。また、そのもの。A協議の成績。レコード。Bこれまでの成績や結果の最高。この3つのうち、ここではまず@の意味で書き始めることにしたい。早くも11月中旬を迎え、今年も残り1カ月僅かとなった。今年の記録を振り返り、記憶に留めておきたい意味もある。
 今年もさまざまな出来事があったが、馬の記録ということからいえば、ファインモーション(牝・3歳)の活躍は特筆すべきものだろう。11月10日、牝馬日本一を決める第27回エリザベス女王杯(GT・京都、芝2200メートル)で、3歳馬ながら4歳以上のトップクラスを相手に楽勝した。しかも単勝1.2倍の断然人気に支持され、堂々とその人気に応えた。3歳馬のこのレース優勝は初めてで、史上初の古馬GT無敗制覇を達成。大記録である。これで6戦6勝。無敗という点にも、記録的価値がある。今後は暮れの有馬記念(GT、中山・芝2400)を予定している。今度は牡馬の強豪相手に「日本一」を決めるレース。これにも勝つようなことがあれば、大記録に花を添えることになるが、果たしてどうだろうか。
 ファインモーションの場合、デビューが遅かったこともあり、これまでのレース数は少ない(6戦)。従って、単に連勝記録という点だけからは、新記録というわけではない。参考までに、デビューからの連勝記録の例を見てみる。JRAが発足した54年9月以降、最多はミスオンワード、マルゼンスキー、シンボリルドルフが記録した「8」。それ以前では、ダイナナホウシュウ、クリフジの「11」が最多。特にクリフジは戦前の馬で、牝馬ながらダービーを制している。それこそ伝説的な名馬だ。ついでに伝説的な話をすれば、ヨーロッパにはもっと凄い馬がいたようだ。18世紀に牝馬のキンツェム(ハンガリー)が、54戦54勝の伝説的な数字を残しているという。なにしろ古いことなので、詳しいことは分からない。
 ところで、「連勝記録」だけが「強さ」を示すものとはいえない。また、連勝を重ねたとしても、必ずしもファンの記憶に長く残る名馬とはいえない。例えば、シンザンなどがいい例だろう。64年に皐月賞、ダービー、菊花賞のクラシック3冠を制して、戦後初の3冠馬(史上2頭目)になった。この馬の名を残すため、「シンザン記念」というレースが設けられてもいる。このシンザンでさえ、生涯無敗であったというわけではない。だが、ここぞという大レースでは、真価を発揮した。ウメノチカラとの「一騎打ち」と見られたクラシックレースでは、すべて勝った。強力なライバルとの白熱のレース。それこそ語り伝えられる名勝負であり、それを制したために、人々の記憶にも長く残るのだろう。その意味では、ミハルカスがシンザンに対して大胆な戦法で果敢に挑んだ有馬記念(65年)なども、名勝負の1つとして語り継がれている。
 「記録」は、感動の「記憶」を蘇えらせる。逆にいえば、記録しておかないものは、とかく忘れやすい。長く記憶に留めるためにも、記録には意味がある。ひるがえって、個人の「記録」も、自身の「記憶」のためには必要だといえる。記録しておくことが、「生きていることの証」となることもある。そのためには、まず、対象が競馬であれ、何であれ、大いに感動したいものだと思うが、どんなものだろうか。

(宇曾裕三)

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