競馬徒然草(8)
−誤解と皮肉な結果−
小説に『美しき誤解』というのがあった。しかし、現実の世界には、「誤解」に美しいものがあったとしても極めて少なく、多くはその逆だろう。そのことを感じさせたのは、実は競馬である。早い話、レースの波乱には、ファンの馬の能力に対する「誤解」に基づくものが多いようだ。強いはずの馬がしばしば負け、その結果として万馬券にもなるのだから。
前回、低金利時代と夢について書き、大穴のことに触れたが、その途端に超万馬券が飛び出した。地方競馬でのことだが、参考までに紹介してみる。4月8日の大井競馬、第8レース。的中した3連単(B―A―F)の配当は112万5420円。競馬ファンでない人のために言えば、3連単というのは、3着までを当てる馬券で、狙った馬が狙った着順どおりに1着、2着、3着に入ると、的中となる。1着だけでなく、2着、3着も当てるのだから、単なる運だけではなく、それこそコナン・ドイルやアガサ・クリスティ−などの推理作家顔負けの推理力が必要となる。その代わり、配当は他の馬券に比べてはるかに大きい。
この3連単は、外国の競馬ではすでに実施されており、日本国内でも要望されていた。それが地方競馬だけでも導入されるに至ったのは、1つの規制緩和といえるだろう。中央競馬のほうは遅れていて、まだ3連単は導入されていない。その代わり6月の福島競馬から、連単と3連複の発売を試験的に始める。連単の仕組みは、1、2着を着順どおりに当てるもので、着順を問わない馬連とは異なる。仕組みとしては先ほどの3連単に似ている。ただ、3着馬は関係ないので、3連単ほどの難しさはない。それでも今の馬連よりは配当は大きくなる。もう1つの3連複は、狙った3頭の馬が3着までに入ればよいというもの。今の連複が2着までを当てるのに比べ、やや難しくなる分、配当もよくなる。この2種類の馬券は、福島競馬での試験的段階を経て、7月13日から全国展開となる。ファンにどのように迎えられるだろうか。
万馬券に話を戻せば、4月7日の桜花賞でも万馬券が飛び出した。馬連E―Nは3万4440円。優勝したアローキャリーは公営競馬(北海道)出身で、中央入りしてから人気になりながら、勝てずにきた。前走も不利があったとはいえ8着だった。それで18頭立ての13番人気と人気を下げた。それが晴れの大舞台で見事に優勝。勝利を疑ったのは、騎手の池添謙一(22)自身で、ゴールの瞬間、「うそだろう!」と思ったという。
山内調教師は驚きというより、複雑だったようだ。というのは、有力馬の1頭サクセスビューティーも出走させており、勝つのはこちらと読んでいたからだ。だが、16着に沈んだ。皮肉と言うほかない。
皮肉と言えば、単勝と馬連が万馬券になった4月8日の皐月賞もそうだった。1、2着したノーリーズン、タイガーカフェとも騎手は、短期免許で騎乗した外人騎手(ドイル、デムーロ)。しかも、優勝したノーリーズンなどは無印だった。単勝1万1590円、馬連5万3090円(A−H)は、クラシックレース史上最高。長く記録に残るだろう。優勝馬ノーリーズンの皮肉を込めた馬名(理由なし)とともに。 (宇曾裕三) |