2002年(平成14年)1月1日号

No.166

銀座一丁目新聞

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花ある風景(80)

 並木 徹

 スポニチ登山学校(校長、八木原圀明さん)では毎年12月にその年の一年生が終了のための作文か写真を提出するのを義務づけられている。作文は「サガルマータ」と題して文集としてまとめられる。2001年の作文集には山男、山女16人の作品がある。これがまことに面白い。文は人なりというが、如実にその人を表している。さらにはその期の個性もだしている。登山学校は一期から六期をかぞえるが、六期生はなかなかユニークである。
 6期生(入学者26人)の特徴をあげると、「几帳面である」。2月から12月まで11回の山行をしている。皆勤は4名しかいないが、自分の参加した山行を列記し、そのつど感想を述べている人が二人もいる。小学校の時から歩き始め、登山学校の一年間、さらにこれからの事も書いた人もいる。
 次ぎに感じたのは「心が温かい」点である。山女の一人は書く。『この山行でお世話になったのが星野龍史先生でした。10月に星野先生がダウラギリで消息を絶たれた時、すぐ思い出したのは赤岳山頂のことでした(7月15日午前10時10分・2899.2メートール)。必死の思いで頂上に着いたので嬉しくなり、私はつい山形弁をしゃべってしまいました。すぐそばにいた星野先生がそれを聞き、目をつぶりながらこういって下さったのです。「あったかいなー」と』。山形弁のぬくもりをいったのか、お互いに助け合って頂上までやっとの思いでたどり着いた生徒たちの気持ちを表現したのかさだかではないが、6期生には貴重な記録である。
 ここの生徒たちは『そこに山があるから登る』などと陳腐な言葉をはかない。もう一人の山女はいう。『山に行く最大の理由は、人の優しさ、温かさに触れ、益々人が好きになったからだ』。この人は星野講師に追悼の歌をささげる。
 「秋も暮注ぎしワイン深紅なり/瀧に浮かぶ今は亡き君/夏の赤岳思いつつしばし見とれる」
 「団結が堅い」どの期も初めはぎこちないが、山でともに汗を流し、苦労し、助け合ってゆくうちの結びつきが強くなる。6期はそれがひときわ目立つ。どうも話を聞くと三人のリーダー役がいるらしい。Eメール「アガルマータ登山隊」の掲示板を開設し、近況報告・情報交換を行っている。卒業後も『晴天会』を作り、山行の日程まで出来つつあるという。まことの早手回しである。
 尾形好雄講師から『自分が極限状態に置かれた時でも、他の人に思いやりの心を持って行動する人』がリーダーとしての資質だと教えられ、痛く感激した山男もいる。この人は視覚障害者が入っている山の会の会員にもなり、サブリーダーとして登山学校で教えられた、観天望気、読図、ストレッチ、キネシオなどすべてを駆使し無事大役をはたしている。その積極性には脱帽である。そういえば、『わが町にトレッキングクラブをつくり、山行の楽しさをみんなで味わたい』と考えている人もいる。
 スポニチ登山学校の校則は僅か三条である。
 第一条 山に親しみ、山を愛し、山から学ぼう
 第二条 登山の基礎的技術をしっかり身につけ、心身を鍛えよう
 第三条 常に情誼のあつい人間たれ
 生徒たちが率先してこの校則を実践しているのに感心する。

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