アイスランド共和国の駐日大使館開設を記念して開かれた「レイキャビック室内管弦楽団」の演奏を聞いた(10月24日・さいたま芸術劇場)。五つの演目のうち四つが現代音楽である。他の一つは、モーツァルトのピアノ四重奏曲1番ト短調K478で、四つの現代音楽を盛り立てるために演奏された感じがした。
とりわけ、現代音楽の重鎮アトリ・ヘイミル・スヴェイソンのアイスランド・ラップは聞き応えがあった。演奏の中に、人間の体を楽器にして、掛け声、手拍子、足による床鳴らしなどががあり、ベルンハルズル・ウィルキンソン指揮のもと13人が織り成す弦と管の調べは聴衆を魅了した。
プログラムの解説によると、アイスランドの民謡の変拍子をとりいれて、名人芸的なアンサンブルの傑作を生み出したいくつかの作品のひとつで、ラップはインスピレーションのおもむくままに書かれた作品というよりは、むしろもっぱら娯楽として作られたものだそうだ。 聴衆も笑い声を上げて楽しんでいた。
もともと、ラップは1970年代中ごろにアメリカのニュヨーク在住の黒人によって生み出された語り物芸能といわれる。その演奏を聞いていると、アイスランドの風景が浮かぶ。絶え間なく吹き上げる間欠泉、雄大に流れ落ちる瀧。踊る民衆、人助けするおばけもでてくる。聞いていて快い。埼玉県芸術文化振興財団の芸術総監督、諸井誠さんは「あの音楽は前衛だ」と誉めていた。
この国は何でも先取りする。1986年、首都レイキャヴックでアメリカのレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が会談、冷戦解消の幕開けとなった。世界ではじめて国会をもった国である。930年に多数決で物事をきめた。いまから1071年も前の話である。近代音楽の歴史はまだ100年も満たないが、バイキングの血が流れ、伝統をまもりながらも進取の気性に富む国民性を持つ。ここから前衛的な現代音楽が生まれても何ら不思議ではない。
アイスランドは人口28万人、面積は九州と北海道を合わせた大きさだが、音楽学校・大学は80を数える。その国から来日した音楽家たちのメッセージは強烈であった。世界の流れに流されず、伝統を生かし、流れの先を読んで行動し、実行してゆく・・・アイスランド・ラップはそのよう伝えているように思える。
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