花ある風景(74)
並木 徹
カトマンズ在住の画家、白井 有紀さんが今年もまた個展を開いた〈10月14日から20日まで/渋谷区神宮前、ギャラリ神宮苑〉。今年のタイトルは「植物のある風景」昨年は「神話の中の町から」であった。この人の街角の風景が私は好きである。その土地の住む人と温かな街の雰囲気がよくでている。それが彼女をすでに11年間もカトマンズにいつかせたものであろう。
白井さんと知り合ったのは平成6年1月である。スポニチが支援した群馬県山岳連盟のサガルマータ登山隊の登頂が成功、その祝賀パーティーがカトマンズのホテルで開かれた。この時、登山隊長の八木原圀明さんから「絵かきさんですが、凄い女性です」と紹介された。彼女はネパールにきたのは平成3年だからまだ三年もたっていない。その明るさと屈託なさと行動力があっという間に周囲の人をまきこんだのであろう。山好きの橋本竜太郎さんが首相のとき、ネパールを訪れた際、有段者の彼女は橋本首相を相手に剣道の手合わせをしたと聞いた。
多摩美術大学日本画科を卒業した彼女は絵を書く傍ら、ネパール語、ネワール語を勉強、日本人学校で国語を教える。多忙である。物知りでもある。スポニチの特集版にネパール紀行を連載、「ネパールで出会った神々」(丸善ブックス)という本もだしている。カトマンズ盆地には3千3百万の神々がすんでいる。ネパールの人々は宗教・宗派にこだわらず神様と見れば手を合わせ「神様はひとつじゃない」といいきる寛容さをもっているという。日本人とよく似ている。
一週間の滞在期間中、白井さんに案内されて街や昔の王都のあとなどを見て歩いた。埃ぽかったが、中世の町並みを残す建物もあって風情があった。アメリカ人はこの町並みにあこがれてよく観光にくるそうだ。私たちのときもそうであった。不思議に思ったのは、この国の男たちがあまり働かないことだ。彼女の本にもあるように、あくせずせず、日々を淡々と暮らす。明日できることは今日するなという感じである。「私はこの諦めともいえる怠惰な平和をうとましく感じながらも、不思議な魅力に囚われ、いままでここから出られずにいる」と彼女は書く。わかるような気がする。
彼女が描く風景画は「諦めににも似た怠惰な平和」を温かく包み込んでいるといえる。あわてず、ゆっくり、のんびりを生活の信条としている私が彼女の絵の共感するのは当然かも知れない。 |