息子というのは乱暴な口をきく割には母親に優しいが、娘はどうも遠慮がない。こちらも同じく言いたいことを言うので、娘の連れ合いなどは
「それでも貴女たちは親子なの?」
と時に呆れたように言う。
ある時、私が歯の治療をして何本か“さし歯”を入れたと言うと、すかさず娘が口を挟んだ。
「さし歯だって入れ歯でしょう?」
なんて失礼な、さし歯は断じて入れ歯ではありません。
「じゃ、どう違うの?」
入れ歯というのは、あのテレビのコマーシャルにもある通り、出し入れをして洗うというイメージがあって如何にも年寄りくさい。歯がほとんどダメになってしまった時の最終手段であり、さし歯は、若い人の歯の治療にも用いられている部分的な補正手段なのだ、といくら説明しても
「へぇ、全部さし歯にしても入れ歯って言わないのかしら・・・」
なんてまだブツブツ言っている。
さし歯は何本入れたってさし歯なんです!!
“髪を染めている”と言った時も然り。
「え?! もしかして染めなかったら真っ白なの?!」
本当になんて失礼な女だろう、これが他人だったら絶交宣言をするところだ。
20代の頃から若白髪であったところへきて、夫の7年間に5回にも及ぶ入退院や、胃の手術を受けた時に3日も意識が戻らなくて、心労を重ねたことなどもあって、そのあたりからドッと白髪が増え始めた。それもロマンスグレー風に生え際から徐々に白くなって行くのではなくて、あちこちからバラバラに生えてくる、いわゆる“ごま塩”風である。見た目にも綺麗ではない。
それに白髪が出てきたというのに、顔には余りしわが出ないので、神様も両方では可哀想と思って下さったのだろう、といい方に解釈して、綺麗な銀髪になるまでは染めようと思い立った。
“白髪染め”というから聞こえが悪いのであって“おしゃれ染め”と思えばなんと言うことはない。
「おしゃれ染めねえ・・・」
と、この時も失礼な娘は鼻の先をフ〜ンと上に向けた。
|