2001年(平成13年)8月20日号

No.153

銀座一丁目新聞

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お耳を拝借(22)

-♪ある日森の中で・・・

芹澤 かずこ

 

 “自分の別荘のつもりでご利用ください”とスポニチの軽井沢山荘の利用ガイドにあるのを幸いに、ここ数年、子供たちの家族との夏休みに大いに利用させてもらっています。滞在期間が決まるとそれぞれが都合のつく時間に現地集合です。
長女は中野から、長男は横浜から、次男は今年は転勤先の京都から7時間がかりでやってきました。私だけ車を持っていないので、毎年誰かしらに乗せてもらいますが、今年は長男が迎えにきました。
それぞれに孫が二人いる4人家族なので、総勢13人が一同に会することになります。お正月でもなかなかこうはいきません。何回か回を重ねていると役割分担が自ずと決まって、先に到着した方が買い物に出かけることになります。
娘婿が何かと取り仕切るのが好きらしいので、「好きなんだから、やらせておけばいいのよ」の娘の言葉どうり総てお任せ。庭にテーブルや椅子を並べたり、コンロで火を起こしたり、チビたちを連れて釣堀に鱒を釣りに行ったり、実にこまめに働いてくれます。
今年は大鍋いっぱいの豚汁まで作ってくれました。

 私は2年前に虫に刺されて、そのあと何ヶ月もアレルギーに悩まされたので、去年から大型のダニ取り掃除機を持参して、貸し布団屋さんが持ち込む寝具まで徹底的に掃除をします。今年は例年になく涼しいのか、毛布までついてきたので、13人分の夜具に掃除機をかけたら、もうそれだけで疲れてしまいました。
各家庭から持ってきた品物以外の、現地でかかった費用はすべて割り勘にします。大人も子供も、呑兵衛も下戸も関係なく、頭数で割るのです。共同生活の鉄則は何でもオープンにすること。
1日目はバーベキューに決まっていて、鍋奉行ならぬバーベキュー奉行の娘婿が、仕込んできた肉や野菜を焼いたり、焼きそばを作ったり、釣ってきた鱒を串刺しにして焼いたりと、ひとりで張り切ってくれます。
「カナカナカナカナ」と鳴く蜩(ひぐらし)の声を聞きながら、高い木立の下で談笑しつつ時を過ごしていると、あの連日の猛暑がまるでウソのような涼しさです。いつしか蜩の声もやみ、辺りが暗くなるとチビたちの恒例の花火大会。丸く輪になって6人の花火がいっせいに火を放つと、そこだけ異空間のように明るく、どの子の顔も嬉々としています。
「あれ、みんな貴女の孫ですよ、凄いねぇ…」
と、次男が考え深げに言いました。本当に…。

朝は、早く起きた者が自転車で焼きたてのパンを買いに行きます。残り組みがコーヒーを沸かし、前日に用意した野菜でサラダを作り、ハムやメンチカツやコロッケで簡単な朝食を済ませ、身支度をして遊びに出かけるのです。今年は塩尻湖で素焼きの色つけやボートやポニーに乗ってチビたちは大喜び。ゴーカートや18ホールあるパターゴルフは子供より大人が夢中でした。
たまには違ったことをやろうよ、とバードウオッチングも試みました。子供向けのコースに参加して案内のお姉さんの説明や注意を聞きながら森の中に入って行きます。入り口に「月の輪熊に注意!」と木製の立て札があって、ちょっとざわめきが起きました。すかさず、案内のお姉さん曰く、
「この森は本来は熊や鹿など動物の住みかです。そこへわたしたちがお邪魔するわけですから、そのことを頭にキチンと入れて下さい。大きな声を出していれば近づいてくることはありません、さあ、元気いっぱい歌いましょう〜、
♪ある日 森の中 熊さんに 出会った… 」
 みんな大笑い。それでも言われたように大きな声で元気いっぱい歌いながら、どんどん森へ入って行くと、ところどころに真新しい熊の足跡がありました。その大きさからして大きな熊に違いありません。鹿がついばんだ木の実もありました。けっこう高い枝です。
耳をすますと鳥の囀りがいっぱいです。でもバードウオッチングは難しくて、なかなか鳥の姿をとらえることは出来ません。出発の前に「鳴き声のする方に顔を向けて、大体の方向を定めてから双眼鏡を目に当てるように。双眼鏡を手にしたままキョロキョロしないこと」と使い方の説明を受けてきても、いざ本番になると持ったまま動いてしまいます。でも、双眼鏡を首からぶら下げて森を歩いているだけでも、十分にその気になっています。
森の奥の小さな沼にはオタマジャクシがウジャウジャいましたし、大きな池の水面には塩辛トンボが群れをなして飛んでいました。都会ではなかなか見られない光景です。
 普段、父親がいると甘えてばかりいて、ほとんどおんぶや抱っこで歩かない子も、同じような年令の連れがいるせいもあり、また土の感触はコンクリートと違って足に優しいのでしょう、本当によく歩きました。

 2泊3日の楽しい時間はあっという間に過ぎて、「また、来年…」とそれぞれ家路につきました。帰りの私の足は、東京へ寄って行くという次男の車でした。



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