北鎌倉駅から山ノ内の山奥へ入り込む一寸手前、静寂な門構えの名刹。雨の時季には、山門までの鎌倉石の参道沿いに、水滴を浴びたヒメあじさい(日
本あじさい)たちが涼しく微笑む光景はお馴染みだ。
そのヒメあじさいも、立夏の頃は、まだ、か弱い枝葉の姿。
ヤマツツジやシャクナゲなど20以上もの春の花たちに圧倒され消え入りそう。
七変化するといわれるあじさいも、時の流れとともに色を変えながら咲き乱
れるのは、ほとんどが西洋あじさいの種。一方、ヒメあじさいは咲いて散るま
で一色。青紫色を頑なに守る。
日本で創出されたあじさいだが、今や、日本あじさいの数は減少していると
聞く。例えば挿し木を試みても、そう簡単には土地に根付かないそうだ。寺で
の手入れにも労力を施しているという。"あじさい寺"としては、シーズンを前に
「今年もヒメは咲くかな?」と気をもんでいる。
確かに、境内の庭園は美しく整備されている。
草木が茫々とした古寺も趣あるが、華麗な境内もたいへんに風情がある。豊
かな花と樹と伝統が明快に守られ、参拝客はそれらを愛で、楽しそうだ。
江戸時代、北条時頼の仏堂として建てられた「明月庵」が始まりだが、現在
は、庵(草木を結んで作った粗末な家の意)とはほど遠い、近未来的な庭園を
擁している。本堂の後庭園で花しょうぶがズラリと首をかしげるのも、もうじ
き。大庭園のド真ん中に、UFOが降り立っても不思議はない感じだ。
2001年の大河ドラマ(NHK)は、鎌倉幕府8代執権・北条時宗。時宗は時
頼の子、時頼は北条政子の兄・義時のひ孫にあたる。宇宙人だけでなく、多く
の人間たちが、鎌倉に、明月院に、足を運ぶことになるかもしれない。ヒメ、
ちゃんと咲きますように。