人前で話をするのは難しい。話をすると、もろにその人の人柄が出る。内容、言葉使い、話し方に人格がでる。三好 達治さんは声はその人の性格、道徳観、体調をあらわすといっている。
私たちの日常生活を考えてみればよい。気分の良い時には穏やかな声がでる。イライラしている時はついつい声が荒っぽくなる。講演ともなれば、準備し体裁を整えたにしても、日ごろの言葉使い、考え方がにじみ出る。
森首相の『神の国』の発言はいくら謝ったところで、彼の全人格の表明であるとみてよい。普段からの人間修業が大切なのである。
短命で終わった石橋湛山元首相(1956・12月から1957・2月まで在任)が東京・日比谷公会堂で首相第一声を上げた時,こういっている。『民主政治は往々にして皆さんのご機嫌をとる政治になる。これが民主政治を滅ぼす原因になる。私はみなさんのご機嫌を伺うことはしない。ずいぶん皆さんに嫌がられることをするかもしれないからそのつもりでいてもらいたい』(岩見隆夫著『政治に必要なのは言葉と想像力とほんの少しのお金』毎日新聞刊)
森首相と比べてなんという違いであろうか。言葉,考え方は人間に裏打ちされているといってよい。
また岩見さんは同書で三木武夫元首相(1974・12月から1976・12月まで在任)から聞いた話を紹介する。『昔は一回演説するごとに聴衆の反応を確かめながら草稿を手直ししていった』
こんな政治家はもういない。まさに政治家の言論衰えたりというべきである。つまり人物がいなくなったというほかない。