2000年(平成12年)6月1日号

No.109

銀座一丁目新聞

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花ある風景(24)

並木 徹

 

 知人の梅田 恵似子さん著「紀州から」(藍書房刊本体2000円+税)の出版を祝って、和歌山市で開かれた「紀州料理を楽しむ会と報告会」(5月)に出かけた。

梅田さんとは昨年3月、同県花園村(人口600余)での劇団「ふるさときゃらばん」のミュージカル「噂のフアミリー一億円の花婿」を和歌山放送社長(当時・現会長)北野 栄三さんと一緒にみて以来の御付き合いである。この本は昭和30年代から書き続けた随筆の中から選んだものと短歌の師である「田中克巳先生のこと」を新たにかきそえたもの。この会に出席した藍書房の渡辺 ゆきえさん、小島 弘子さんの二人が梅田さんと再三電話やFAXでやりとりして梅田さんの豊かな感性と多彩な表現を十分に生かした本にしあがった。

お祝いの会で挨拶した北野さんは「梅田さんは天才である」と誉めた。無理もない。梅田さんは小学校1、2年のころ母親から与えられた上の句「雨が降る」を使って「雨が降る お池の鯉が よろこんだ」と詠んだ。

短歌に早くから非凡な才能があったようである。「紀州から」を読めばそのことが良く分かる。

昭和6年生まれの梅田さんは随筆家であり、歌人であり、食通であり、いろいろな顔を持つ。この日の参加者は270人。いずれも電話やFAXで会のあることを知って集まった。梅田さんは形式的なことは嫌いで正式な通知をしていない。気心のしれた人びとが時間を都合つけてくればいいというわけで、紀州料理は知り合いの料理屋さんたちがこしらえて会場に運んでくれた。雰囲気もとても和やかで、時間のたつのを忘れさせた。hana5_1.GIF (20797 バイト)

この本の後書きでこう書いている。「地方で女が物を書くという至難の山をまたひとつ越えた。継続が力になった。私は生活臭のないものを書くという一線をひいた。書いている時が『美しい』の発想だ。自分がやれる範囲で『紀州』というひとつの地域に向き合った。 紀州から日本を考える。 そして世界を見る」

 これは今後の彼女のしたたかな決意表明でもある。

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