2012年(平成24年)11月10日号

No.555

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

 

花ある風景(473)

 

並木 徹

 

臨終に子守唄を聞かせよう
 

 朔立木著『終の信託』(光文社文庫・2012年6月20日初版発行)に喘息患者江木泰三が女医折井綾乃に「意識がなくなっても声をかけてください。出来たら子守唄を・・』を願うくだりがある。江木が教えた子守唄は「とろとん、とろりこ、とんとろり/とろとん、とろりと鳴る音は/ぼうやのお寝間にゃまだこぬか/来なけりゃ迎えに参りましょう/海山越えて鬼が島/鬼の居ぬ国、ねんね島」であった。承知した女医の折井は暇を見ては覚える。

 実は江木はこんな経験をしている。昭和20年8月、ソ連が満州へ侵攻した際、チチハルで3歳年下の妹ソ連軍の銃弾で死ぬ。その際母親が歌ったのがこの子守唄であった。母が早く眠りが来るように願って歌う。「早く死が来るように、楽になれるように、苦しみのない国にいけるようにと、親は願ったんだと思うんです」と江木は折井に話す。女医折井は臨終を迎えた江木にそれを実行した。泣きながら子守唄を歌った。

 ところで作者のあとがきに『文中に使った子守唄は二連目に「かちかち山」などが出てくるので、大正あるいは昭和初期の新作子守唄ではないかと思われ、「赤い鳥」運動の関連科と想像するが作詞者そのた一切わからない』とあった。そこで調べてみた。知人の日本子守唄協会の会長の西舘好子さんに問い合わせた。早速、コメント付きの返事あった。「おたずねの子守唄は九州一帯または島,・・・・,,軍艦島、喜界島、硫黄島あたりの歌です。鬼ヶ島が眠らす子どもの恐いところというあたりを唱っているうえに、その鬼が居ない、てのとどかないところ、ここなら大丈夫といっているのに海の向こうという現実が見える場所です。子どもの心には海の向こうは鬼が住むというあたりに謎があるようです」

作詩は:清水都代三さん・  作曲は:山田耕筰さんであった。2番以下の歌詞は次の通りである

 「とんとん とろりこ とんとろり
 とんとん とろりと 鳴る音に
 黄金の臼やら 銀の杵
 寝る子のお土産に せうとてか
 日本一のきび団子 軽いつづらも用意して
 とんとん とろりこ とんとろり
 とんとん とろりと 春く杵は
 月姫様の お使ひか
 かちかち山の 兎さん
 狸もお悪戯を やめにして 
 寝る子にお守の腹づつみ
 とんとん とろりこ とんとろり
 とんとん とろりと 鳴る音に
 合わせて雀も をどりましょ
 坊やが行こなら 枯れ枝に
 真赤なお花も 咲いてましょ 
 夢は桃色 桃太郎」