2008年(平成20年)7月1日号

No.400

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安全地帯(219)

信濃 太郎

「江戸の古川柳について感あり」

 昨年に続いて佐伯泰英の時代小説を読んでいる。やや中毒気味なので控えていたがまたぞろ手を出した。買ったのは「交代寄合伊那衆異聞」の「変化」「風雪」「雷鳴」「攘夷」の4冊。10日足らずで読破した。文句なしに面白い。作者の佐伯さんは物知りである。このシーリーズで抜けていた「阿片」と「邪宗」をパソコンで買い求めて2冊とも読んだ。「変化」に古川柳が出てくる。
「月に二度植木を渡す渡し船」とある。
鎧の渡しを詠んだ句である。この渡しの南側にある茅場町薬師の縁日は8日と12日。この日は境内で植木市が開かれ植木を買った人が多く渡し船に乗ったという。
古川柳は江戸中期の宝暦(1751年)、天明(1781年)のころに柄井川柳によって創始された。古川柳は17文字という以外これといった制約は一切ない。なんでも自由自在に詠む詩である。古川柳の中で傑作といわれているのは「やわやわと重みのかかる芥川」である。注釈すると二条の后がまだ入内以前に業平がつれだして芥川まで逃げたが、追手のため女を奪回されたという「伊勢物語」に基づく(山路閑古著「古川柳」岩波新書より)。
石田波郷は江戸川矢切り渡しを次のように詠む。
「用もなく乗る渡船なり猫柳」
 一、 大人十円小人五円
 二、 自転車十円
 三、 風水害の場合は以上の限りではありません(江東歳時記より)
「攘夷」には
「砂糖も袖を留める丸山」と「思案橋ろくな思案のでぬところ」がある。
当時、砂糖は調味料として薬として高く取引された。長崎の丸山では遊女たちの揚げ代として用いられた。思案橋は丸山の悪所にも通じる橋だ。
江戸の吉原はどのように詠まれているのか。
「ふられた夜はどうしてくりよかとかんがえる」
「ひとりねして居る客弐三人」
こんな句もある。
「猪牙の文へんほんとして読んで行く」猪牙船で通う客が、遊女から来た手紙を川風に翩翻とひるがえしながら読んでいるという意味である(前掲「古川柳より」
また「おとり子のかくし芸迄してかへり」という句もある。解釈は任せる。
手元にあった「俳風柳多留」(社会思想社)をめくっていたら「ぼたもちすり子木でつくはづかしさ」「でんがくでしゃれる向ふはかあんかん」の句が目に付いた。佐伯さんの時代小説から古川柳を勉強させていただくとは夢にも思わなかった。

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