2007年(平成19年)1月10号

No.347

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花ある風景(262)

並木 徹

「ショートショート@」は面白い

 「ルパン文芸」を主宰している山本祐司君から17人の会員の作品を収めた「ショートショート@」が贈られてきた。2005年7月に出した童話集「1ダースの童話」第1号に次ぐものである(2005年8月20号本紙「花ある風景参照)。「ルパン文芸」は「文学を極めるには児童文学(童話)と大人の短編のニ本線で行くしかない」と覚悟を決めてやってきた。この道は間違いではなかった。山本君が「あとがき」で書いているように昨年上半期芥川賞受賞者伊藤たかみさん(35)、直木賞受賞者、森絵都さん(38)の二人とも児童文学界出身者。また森さんは直木賞授賞した三浦しをんさん(29)とともにその作品は短編であった。山本君の喜んだ顔が浮かぶ。
 会員の作品はみなそれぞれ力作であった。「坂くらべ」などは達者な文章で博学でめりはりがきいている(童話「泣き虫忍者」もよかった)。幽霊話の「居座る男」は文句なく面白い。独断と偏見でいわしてもらうと、私の心に響いたのは「星の歌」であった。私の好きな歌「戦友 別盃の歌」(作詞・大木淳夫)が出てくるせいかもしれない。大木淳夫は戦時中、ほかにも「祖国の柱」などの国民歌謡を残している。
 「言うなかれ 君よわかれを世の常を また生き死にを」4歳の主人公でさえ「さよならの歌」とわかる。言葉の響きが子供心にしみる。「海ばらのはるけき果てに 今やはた何をか言はん 熱き血を捧ぐる者の 大いなる胸を叩けよ」祖父がみたフィリピンのツゲガラオの南十字星につながる。「この夕べ相離るとも かがやかし南十字星を いつの夜かまた見ん」4歳の子度は祖父に見せたいものをちゃんと知っている。それに自分が集めた貝殻を付け加える。「言うなかれ君よわかれを 見よ空と水うつところ 黙々と雲は行き雲はゆけるを」南十字星。あの頃は望郷の星。今は幸せの星である。天の川を中心に十字を画く4つの星。戦中派にはそれなりの感慨がある。「バンザイ」を叫ぶ子供の声が平和をにじませる。深い海でのハプニングを織り込んで「ママ、砂のなかに、お星さんがあるよ。星が降ってきたんだ」と弾んだ子供の声で結びとするあたりは心憎い。地名を含めて言葉の広がり、深さが感じられて味わい深い作品と思った。
いずれにしても17作品には「小説の『香り』・『匂い』がある」(山本君の評)。ルパン文芸に栄光あれ・・・

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