2004年(平成16年)6月20日号

No.255

銀座一丁目新聞

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安全地帯(79)

−信濃太郎−

三菱自動車社長逮捕の意味
 

 三菱自動車の元社長河添克彦(67)が逮捕された(6月10日)。罪名は業務上過失致死容疑である。名門三菱グループの社長が捕まるのはきわめて異例である。経営危機にあるとはいえ、一流企業の社長が此処まで落ちたのかと考え込まざるを得ない。車の部品の欠陥隠しが重大事故につながることに思いを致せば、許し難いものがある。
 車のリコール(回収・無償修理)に応じれば、コスト高となり、経営を悪化させることになるのを恐れて欠陥隠しをしたといわれる。もちろん、社長だけの責任でない。他の役員にも部長、課長にも責任がある。「リコールすべきだ」と進言した役員もいたが、社長は聞き流したと伝えられる(6月12日毎日新聞夕刊)。部品の欠陥隠しで今後起きる死傷事故を考えれば、リコールに応ずる決定を下し得るのは社長だけである。「軍の指揮官にとって、もっとも重要な資質はなにかと問われれば想像力である」という(マキアヴェッリ)。どのような職業でもトップに とって必要な資質である。残念ながらこの資質がなかったといわざるをえない。経営者の中にこの想像力に欠ける者が少なくない。昨今起きる企業の不祥事の多くはこのためである。
また「判断に迷った時損することに賭けよ」ともいわれる。その一時的な損失がやがって大きな利益となって返えってくる。赤字を出し、名誉は一時失墜するかもしれないが、やがてその誠意が認められて名誉は回復される。
 筆者は毎日新聞西部代表、スポニチ東京本社社長時代判断に迷う問題にしばしば出くわした。その際、教訓としたのは敗戦時に自決した陸軍大臣、阿南惟幾大将(陸士18期)の「判断に迷う時は道徳的判断を優先せよ」という言葉であった。そのつど良い結果が得られた。

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