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日本経済を支えるのは町工場だ。
牧念人 悠々
日本ファッション協会(理事長稲葉興作さん)の日本生活文化大賞(第8回)表彰式(3月24日、東京會舘)に、軽い気持で出席しておどろいた。 この賞は「新たな生活文化の創造に寄与し、それぞれの分野・地域における優れた活動、 および生活文化創造の将来に新たな息吹きを感じさせる活動を行った個人または団体」を表彰する。今回は大賞一点、生活文化賞四点が選ばれたのだが、目を見はったのが、東京・大田区の従業員たった7人の町工場が安全な缶蓋の開発に成功、世界の食品会社をびっくりさせた事例である。表彰をうけたのは、東京・大田区西糀谷 2−6−7 有限会社(資本金1000万円)谷啓製作所(金属メーカー)会長、谷内啓二郎さん(67)。いまから 10年ほど前、プルトップ缶で指を切ったアメリカのピアニストが、約1億という訴訟を勝ち取った事を知り、谷内さんは自分の出番がきたと天啓のようにひらめいた。爾来、 5年に及ぶ試行錯誤の結果、プルトップ・缶本体とも開口時の切り口がループ状になり、鋭利な部分は手や指に触れず、ケガの心配がない安全な缶蓋の開発に成功した。試作の金型(金属製の鋳型)の数は 150近くになる。この金型を外注せず、すべて自分のところでまかなった。それでも開発成功までの経費は工場を二つぐらい建てられるほどかかった。現在までに世界 17カ国で特許を取得した。アメリカの大手食品会社が、この技術に着目し、重役自ら足を運び採用を決めた。いまでも海外から日に30から50のFAXで問い合わせがきている。その都度、従業員が手分けして翻訳にあたっているという。谷内さんは昭和 22年、富山県から上京、金属加工の技術を身につけ、いまの会社を昭和38年に創業、各種金型専門会社として発展、年間の売上げは5億5000万に達している。いただいたパンフレットには選考委員の声として、小さな町工場が創意工夫により生み出した世界でも最先端の技術。失敗を繰り返しながら、職人気質とチームワークとの融合が最後まで地道な活動を続けさせ、「安全」という評価を勝ち得たことは称賛に値すると紹介されてあった。 経済のみならず、日本をしっかりと支えているのは無名の職人、庶民だとつくづく感じた。
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