2014年(平成26年)1月1日号

No.596

銀座一丁目新聞

上へ
茶説
追悼録
花ある風景
競馬徒然草
安全地帯
いこいの広場
ファッションプラザ
山と私
銀座展望台(BLOG)
GINZA点描
銀座俳句道場
広告ニュース
バックナンバー

 

追悼録(512)

田中角栄元首相没後20年

 毎日新聞の社会部長としてロッキード事件を取材したものとして政治家・田中角栄の名前は忘れがたい。田中元首相が死んで昨年12月16日で20年になった。政治家としての評価はまだ定まっていないという。だがことあるごとに田中角栄の名前が上がる。

 昨年12月19日、自民党旧田中派の議員の秘書ら約80人が、田中氏の没後20年を機に東京都内の居酒屋で同窓会を開いた。田中事務所で仕事を手伝った経験のある自民党の石破茂幹事長も出席。記者団に「選挙は徹底してやり、国のため、党のためにやるということをもう一度思いだした」と語った。同窓会には石破氏のほか、鳩山邦夫元総務相、中村喜四郎衆院議員、岩屋毅衆院議員らも出席したという(朝日デジタルより)。

 同じ12月19日、徳洲会から「5000万円のおもてなし」を受けた猪瀬直樹東京都知事は「個人的借金」と弁解してきたもののついに辞任を表明する。1年前に433万票を獲得して都知事に選ばれ、2020年の東京オリンッピク開催にも尽力した男である。哀れというほかない。

 ロッキード事件の際、田中元首相が逮捕された金額はロッキード社からの5億円であった。「今太閤」と言われた男の凋落の始まりであった。それから37年、人生は「吉凶あざなえる縄の如し」と痛感する。作家出身の猪瀬都知事には5000万円は「大金」であった。田中角栄元首相には5億円は「はした金」に過ぎなかった。それでもお金は大小のかかわりなく二人を苦境に追い込んだ。お金の持つ魔性のせいである。考えてみれば、お金が悪いのでいのではなく庶民感覚をなくし、相手を見る目がなかっただけである。”お金に目がくらんだ”といえばそれまでだが、人間には超えてはいけない一線がある。それを踏み留めさせるのが”良識”というものだ。人間はともすれば”良識“を忘れ一瞬、迷うことがある。人間の弱いところである。自分たちの心がその道を選択したのだ。

 田中角栄について言えば日本列島改造など政治面でなした数々の業績は無視できない。衆議院議員を16期務め、郵政大臣、大蔵大臣、通産大臣、内閣総理大臣を務めた。その政治力は誰にも引けを取らなかった。官僚の操縦術は抜群であった。派閥がなくなり、政治資金の透明性がうるさくなり、昔と政治環境が大きく変わった現在、田中角栄のような人物が出現する可能性が極めて低くなった。だからこそ政治家・田中角栄の存在が幻のように浮かんでくるのであろう。政治家田中角栄は強し、されど人間田中角栄は弱しか・・・・

 

(柳 路夫)