2014年(平成26年)1月1日号

No.596

銀座一丁目新聞

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花ある風景(512)

 

並木 徹

 

「祈りの歌」455年ぶりにローマに響く
 


 南米から初の法王となったホルヘ・マリオ・ペルゴリオ枢機卿(76)の動向を昨年から注目している。アルゼンチン出身の法王は1300年ぶりに欧州外から選ばれた。世界にネットワークを張り巡らせ10億人の信者を抱えるローマ法王の発言は強い影響力を持つからである。1990年初めに欧州で起きた反グローバリズムの運動の火付け役は当時のローマ法王ヨハネ・パウロ2世であった。このため、資料の切り抜き帳まで作った。昨年、私の心をとらえたのは指揮者・西本智実さん(43)が、バチカンで昨年11月9日に開かれる音楽祭に招待され、日本人として初めて音楽ミサの演奏を指揮したことだ。合唱団・オーケストラ含めて日本人400名が参加する。これは異例で画期的なことだ。新法王はかって日本への赴任を希望したこともあり、前任のペネディクト16世が「東日本大震災の被災者への思いを忘れないように」と説いたことも背景にあったであろう。バチカンが日本へ「熱いまなざし」を注いだ事に注目したい。西本さんが選んだ曲は455年前、宣教師ザビエルたちが長崎に伝えた中世の古いミサ曲「オラショ」(祈りの歌)であった。この譜面は上智大学のキリシタン文庫に残されていた。激しい弾圧の中、“隠れキリシタン”がひそかに歌い継いできた。西本さんは長崎・生月島まで訪ね、現地の人々が口々に伝えられてきた「オラショ」を聞き譜面通りであったのに感動する。

 西本さんは、合唱隊を全国から公募、参加者は北海道から九州まで総勢350名。最高年齢は86歳の女性であった。西本さんは3.11の東日本大震災後、いわき市で避難生活を送る比佐美恵子さんからのメールがきっかけで被災地での活動を始める。

 今回の東日本大震災の死者は18703人、行方不明者2674人に上る。

 比佐さんの案内でいわき市薄磯地区にも訪れ鎮魂の祈りをささげる。ここでは446人が犠牲になっている。「歌が持つ本当の力とは何だろう」と考える。音楽祭当日、バチカンの大聖堂に「祈りの歌」(オラショ)の歌声が高らかに響く。「光り輝く聖母よ・・・」西本さんの顔は彫刻のように凛としていた。演奏終わって「神に近づく道を歩みたいと思っています」と語る西本さんの言葉が快く響く(昨年12月23日放送・NHKテレビ「幻の名曲がいま甦る」番組より)。日本に伝わった古いミサを快く許した法王の英断に感謝する。今年もフランシスコ法王の動向に注目したい。