花ある風景(501)
並木 徹
難民を描く映画「楽園からの旅人」
イタリアの巨匠・エルマンノ・オルミ監督の映画「楽園からの旅人」を見る(7月17日・東京・六本木シネマ・8月17日から岩波ホールで上映)。今年、難民を扱った映画を見るのは3度め。「難民問題」が先進国に突き付けた切実な課題であるのを示す。映画の主題は「この世の秘宝は心ある人である」。だが「私たちの求める道は遠い」ということも明らかにする。
教会にアフリカの難民たちが救いを求めて集まる。老司祭は子供にパンを与える。不法移民を取り締まる町の保安委員に「教会はすべての人に開かれている」と拒否する。もともとこの教会は取り壊し寸前で、十字架に磔にされたキリスト像など備品はすべて持ち去られている。そこへアフリカから長い旅を経て様々な人々があつまる。たちまち教会内に「段ボールの村」(映画の原題)ができる。旅の途上一人だけ助かった身重の女性、イスラム原理主義者たち、自爆用の爆薬を隠し持っ女性。そのリーダーは暴力を強調する。傷ついた家族連れの技師は言葉の力を説く。少年が難破船から拾ったノートには「すべての子は一つの母から生まれた」と書かれていた。身重の女性の出産、若者同士の恋…2日間の滞在で彼らはフランスへ旅立ってゆく。ここに人間世界の現在の姿が凝縮されている。人間はどこへ行こうとしているのか。老司祭は「私は信仰を捨てない」といった。聖書によれば「世に勝つ勝利は我の信仰なり」とある。パウロは難船したことが3度、一昼夜海の上を漂ったことがある。その艱難辛苦を乗り越えたものが信仰であった。それはわかるの。だがオルミ監督がいかに、神々しく、美しく描いても現実の世界では人間は放浪の旅を続けているではないか・・・・
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