阿久悠がなくなって6年経つ(平成19年8月1日・享年70歳)過日、阿久悠記念館がある明治大学駿河台キャンパスで来場者3万人突破記念イベントが開かれた(7月20日)。題して「甲子園の詩を語る〜阿久悠が紡いだあの名勝負」。阿久悠は昭和54年から平成18年までの28年間、スポニチで甲子園球児を取り上げた「甲子園の詩」363編を書いている。手元に平成18年8月21,22日日付の「甲子園の詩」の新聞切抜きがある(第88回全国高等学校野球決勝戦・駒大苫小牧対早稲田実業)。前日15回戦って勝負つかず、21日再試合が行われ早稲田実業が優勝した、斉藤祐樹と田中将大が投げ合った、あの試合である。再試合の「甲子園の詩」を読み返すと当時の感動が甦ってくる。
「昨日から持ち越した興奮が
超低周波の音のように
甲子園球場に満ちた
静寂でありながら
鼓膜を叩くものがあるのだ
このようなときめき
このような胸さわぎを
日常に感じることがあるのだろうか
寒々としことばかりの社会で
歓喜の瞬間を待つ心の準備を
足踏みしながら整えたことがあるのか
この日 人々は
球場で テレビの前で
人から得る情報の確認で
久々にワクワクしたのだ
(略)」
あれから7年、両投手は同じプロ野球に在籍しておりながら田中投手(楽天)は現在15勝無敗のプロ野球のタイ記録を作リパリーグの首位躍進の原動力となっている。斉藤投手は2軍生活で今季はまだ一軍の勝ち星はない。だが斉藤選手の事だ。今の苦難を糧にいずれ活躍の場を得ることであろう。「人間万事塞翁が馬」という。人間の名声は棺をおうって決まる。現在の天と地ほどの差がある両者の野球人生を阿久悠はどのように詠むのであろうか・・・
(柳 路夫)