花ある風景(492)
並木 徹
お芝居「男嫌い」を見る
作・鈴木聡、演出・藤井清美「男嫌い」を見る(5月14日・ル テアトル銀座BY PARCO)。来年2月、創刊65周年を迎えるスポニチの記念事業の一環ということで招待された。楽しいコメディ―であった。役者もうまいし踊りも良かった。劇中劇がたっぷり観客を堪能させてくれる。一幕では「花魁」「城ケ島雨情」「明治一代女」「天城越え」二幕では「火消若衆」「河内酒」「木更津くずし」「演歌桜」「お祭りマンボ」で松井誠(時雨座・座長・居酒屋「江戸一」長男和夫)、宝海大空(時雨響太郎)、カムイ(時雨時松)が女形で見事な踊りを演ずる。それにしても鈴木聡さんは達者な劇作家である。
舞台は東京下町の老舗そば屋「たけもと」から始まる。店を切り盛りするは母多佳子(木の実ナナ)と娘志津子(沢口靖子)。奔放な恋愛遍歴を持つ母に似ず志津子は42歳の今日まで「男嫌い」で通る。そこへ町のガイドブックをつくるといって出版社の近藤英信(陣内孝則)が訪れて物語が展開する。
店に集まる常連はホルモン焼き「宇知安」のヤスさん(沖隆二郎)、串揚げ立ち飲みショップのタツさん(中野順一朗)、焼き鳥屋「鳥政」のまささん(澤田喜代美)それに居酒屋「江戸一」の和夫の父清介(石山雄大)。ここで雑談の花が咲く。話題の中心は志津子の結婚話。言い寄る男性をはねつけて断る理由が「私は男嫌い」である。逆説的には「男好き」である。初恋の人は、大衆演劇の若座長和男であった。心理学的に言えば「うそは自分勝手な思いで、自分自身の利益のために自分の側から積極的に他者をだますもの」である。その嘘を近藤がブログの小説「恋の魔法」の著者・鯉野まほが志津子であるのを見破る。人間の心は形となって現れるものだ。携帯小説がお芝居の材料になるのも時代。私は携帯小説「DEEPLOVE」−アユの物語―を夢中になって読んだ。舞台は下町の雰囲気を十分にかもしながら展開してゆく。座長和男には結婚を決めた時雨座の女優小雪(由夏)がいたことから話は複雑になり誤解を生みながらもハピーエンドとなる。楽しいお芝居であった。
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