2012年(平成25年)1月10日号

No.561

銀座一丁目新聞

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追悼録(477)

東日本被災地の消防出初め式に思う

 

 岩手県釜石市で消防出初め式が2年ぶりで開かれた。消防団員らは仲間が犠牲になった震災の教訓を胸に消防活動の安全や防災・防火への意識向上を誓ったという。訓示した野田武則市長は津波の犠牲になった消防団員に言及して「(活動する際は)消防団員が自らの命を守ることを基本とする」と強調した(毎日新聞)。

 アメリカ・ニュヨーク市では消防署員を「ニューヨーク市でもっとも勇敢な男」と表現する。火災消火のために危険を顧みず消火活動にあたるからである。武士道でも卑劣な行動、曲がりたる振る舞いをいみ嫌った。孟子すら「仁は人の心なり。義は人の道なり」と説いた。東日本大震災の被災地では多くの自衛消防団員が住民の避難誘導のために殉職したのはこのためであった。その殉職者の数は岩手、宮城、福島の3県で234人に上る(行方不明者19人)。その死は人間として心の発揮であり、人の道を歩んだだけである。住民を差し置いて真っ先に避難するのは人の道に外れる。人間は時には自分の命を捨てて住民の命を守る。これをむかしは「滅私奉公」といった。三陸大槌町安渡・赤浜地区消防団は町の人々を避難させるため最後まで海辺にとどまり、多くの犠牲者を出す。消防団は地震が起きると防潮堤の門扉を占める決まりになっていた。14か所ある門扉の最初の扉をしめた後、団員の一人は団長から「屯所のサイレンを鳴らせ」と命じられた。停電でサイレンはならなかった。町民に急を告げるのが先だと団長は火の見やぐらから外した半鐘を鳴らし続け、帰らぬ人なった。人のために命を捨てて仕事に専念するのも人間が果たすべき基本だと私は思う。震災後、自営消防団の一団長が今回の教訓を踏まえて「緊急時には消防団員も命を大切にして逃げるべきである」と発言している。だがそうはいってもいざその時になって消防団員がどのような行動をとるかわからない。おそらく最後まで自分の職務を全うするに違いないと思う。それが人間というものである。人間はそれぞれに心に「美しい魂」を持ち合わせている。

高橋佳子は歌う。
「瓦礫も何もなくなった
 空っぽの土地に
 彼らの形見が
 息づいている
 ここは
 かれらが
 自らの魂を捧げた
 聖なる場所」


(柳 路夫)