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唐辛子 ハネをつければ 赤トンボ
牧念人 悠々
さる日、東京・恵比寿にある日仏会館でパリの日仏会館館長の磯村尚徳さんの講演を聞いた。演題は「時ならぬフランスの日本ブーム」。面白く拝聴した。 なかでも興味深かったのは、知日派のシラク大統領の俳句への関心であった。磯村さんの話によると、大統領は俳句の良いところは、こんなところにあると次のような例をあげたという。 弟子の其角が芭蕉に「赤トンボ ハネをむしれば 唐辛子」とよんだところ、顔を横にふった。そこで其角は「唐辛子 ハネをつければ 赤トンボ」と直したら、芭蕉はニッコリうなづいた。 シラクさんは俳句のこのやさしさが何んともいえない、と強調した由。 俳句は自然をうたい、風流、みやび、あわれをよむ。シラクさんは俳句の心を会得しているといっていいであろう。 外国では HAIKUとして年々、さかんになっている。季語も入れて五、七、五の十七文字でまとめるのは、日本人でも難しい。まして、英語ともなれば、なおさらであろうと思う。佐藤和夫さんの著書「海を越えた俳句」に「蛙は一匹か数匹か」と、芭蕉の「古池や」の句を取りあげている。英語の名詞には単数、複数の区別がある。 アメリカの小学校読本にも載っている英訳は、 An old silent pond… A frog jumps into the pond、 Splash! Silence again.となっている。単数である。小泉八雲は複数として訳した。松尾芭蕉がえがいた絵には、蛙は一匹であるので、正解は、蛙一匹である。 久保田万太郎さんは「その場にふさわしい俳句はただ一句しかない」といっている。筆者など手も足もでないといった感じがする。 新聞界でも「その場にあう雑感はひとつしかない」といわれるから、簡潔、明解、平易を旨とする新聞記事と一脈通ずるところがあるのかもしれない。 それをたよりに、シラク大統領にまけずに俳句に励みたい。 最期に小倉時代に知り合った、今は亡き横山白虹さんの句をしるす。 ラガー等の そのかちうたの みじかけれ
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