2012年(平成24年)12月20日号

No.559

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花ある風景(477)

 

並木 徹

 

映画「東京家族」が描くもの
 

 山田洋次監督の映画「東京家族」を見る(12月14日・日本記者クラブ・来年1月全国上映)。家族の人間模様は千差万別。家風、父親の仕事によって大いに異なる。それでいて何となくぬくもりを感じ、喜び、悲しみを共にし、心配する。それなのにわずらわしくなり、時に遠くに感ずる。映画では思わず涙するシーンもあった。

 教師であった老夫婦が東京に住む3人の成人した子供たちを訪ねるところから話が始まる。長男は町医者で子供二人、長女は美容院を経営、人の良い御亭主がいる、次男は舞台美術の仕事をする。まだ独身だが恋人がいる。

 この老夫婦がいい。頑固で一本筋が通っている夫役を演ずるのは橋爪功。その妻が吉行和子。品があって大人しく、万事に気配りがきく。おたがいにいたわり合っているのがほのかに感じられる。なんともすがすがしい。母親が父親からがみがみ言われて育った次男のアパートを訪ねて一泊する。そこで次男に恋人がいるのを知る。二人は東日本大震災の被災地にボランティアで知り合った。吉行は一目見てその女性がしっかりして優しい人柄と見抜く。万一の時にと内緒で“こずかい”を次男の恋人に託す。次男には恋人のことは直接父親に話すように諭す。「父親が聞かない時には私がそばから応援をするから」という。

 一方、父親は亡くなった友人の家を昔の教師仲間とともに訪ね,線香を挙げる。その母親が気仙沼で死んだと聞いてまた仏壇を拝む。こんなところがさりげなくて心地よい。仲間の行きつけの飲み屋で話しているうちに禁酒の誓いを忘れて飲む。友達の家に泊めてもらうはずであったのが奥さんが良い顔をしないというのでタクシーで長女のところへ深夜、舞い戻る。

 機嫌良く次男のところから長男宅に帰ってきた吉行が突然倒れる。病院へ運ばれたが亡くなる。次男が恋人を連れて駆けつける。「お母さんは俺を助けてくれると言ったじゃないか」と泣きじゃくる。

 郷里瀬戸内海の小島の葬儀が終わった後も次男と恋人は数日残り、父親の面倒をみる。無口な父親が言う。「母さんの形見の腕時計をあなたにあげる」「母さんが次男のうちから帰宅した時とても良い顔をしていた。よいことがあったのであろうと思っていたが聞かないうちに死んでしもうた。貴方を見ているうちにそれがあなたのことだと分かった。本当にあなたは良い人だ」それを聞いた彼女はわっと泣き出す。残された父親は近所の人に助けられて暮らすこととなる。妻を亡くした亭主に寿命は平均2年半と聞く。この父親は何歳まで生きるのだろうかと思いつつ、映し出される瀬戸内海の穏やかな海を眺める・・・