花ある風景(471)
並木 徹
串田和美の「Kファウスト」を見る
串田和美演出・高野笹史出演の「Kファウスト」を見てゲーテの「気力をなくすと一切を失う。それなら生まれてこぬがいい」と言う言葉を思い出す(10月10日・世田谷パブリックシアター)。舞台が活気に満ちていたからであろうか、ゲーテ自身も妻を亡くした後、気力をなくしたのを振るい立たせて、延び延びになっていた「ファスト」の第2部を仕上げている(82歳・1部は59歳の作)。この演劇を盛たて彩りを添えたのはフランスのサーカスアーティスト6人組であった。ブランコ、自転車の妙技を十分に楽しむ。
舞台では高野笹史が扮するファウストと串田和美の悪魔のメフィストが出会い、あの世での魂の服従を交換条件に現世のあらゆる人生の快楽、悲哀を体験させると約束する。高野が若者に変身する。なかなかダンディーであった。若い娘に次々に高価な宝石をプレゼントする。メフィストも未亡人を美しく着飾らせる。やがて二人の競争となり王女さま、女王様まがいの行列まで仕立てるようになる。やがて両者の間に戦争が起きる。お互いにそれぞれの旗を持って舞台をかけ廻る。最後はお互い全員あい果てる。人間の欲望の行く着く所は戦争・地獄である。世界いたるところで起きている資源獲得の争い、領土紛争の行く末を暗示する。
財政難に悩む帝王に祖先の帝王が残した秘宝が地下に眠っている。それを担保にお札をどしどし出せばよいといって取り入る。私は「天上に“神様の銀行”があっていくらでもお金があるから働きなさい」と言われた。一生懸命働いたけれど・・・・。王妃に誘惑され殺されようとしたところをメフィストに助けられる。慾望もほどほどにということ。
小日向文世の道化師も面白く拝見。ファウストの下男で雇われる。妖精に惑わされて天上まで行く。さまざまパーフォマンスを見せながらも最後まで給金のことを忘れなかった。
ファウストは錬金術の大家であった。舞台では実験をやるたびに爆発が起きる。錬金術は人間の見果てぬ夢。夢を追うところから進歩・発展がある。近代化もする。それをゲーテは「ファウスト」で悲劇と名づけた。20世紀に入り人間は原爆を作り『ついに太陽を捉えた』と思いこみ。原発を世界中に並べた。この人間の勝利は発展か前進なのか。それとも悲劇か。ゲーテが死んだのは1832年3月22日、享年86歳。それから180年たつ。人間は奢り高ぶってきた。争ってばかりいる。悲劇を悟らない。ゲーテはこんなことを言ったらしい。
「いかなるときにも
口論は禁物
バカと争うと
バカを見る」
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