1998年(平成10年)12月10日(旬刊)

No.60

銀座一丁目新聞

 

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“針の穴から世界をのぞく(6)”

 ユージン・リッジウッド

インターネット:
文明の利器かそれともウイルスか

 [ニューヨーク発]アメリカ人の生活にインターネットが導入されてまだわずか数年、一般の人の生活に浸透してきたのはこの2,3年のことである。しかしインターネットは今や電話やテレビ、ビデオよりもより重要だと感じる人が多数を占めるようになっている。9割近い人はインターネットが使えなくなれば日常生活はわびしくなると考え、さらに同じ割合の人が知人、友人とのみならず、子供や夫婦間でのコミュニケーションにさえインターネットを使っているという。インターネットは果たして生活に革命をもたらせた文明の利器なのか、それとも現代人をエレクトロニクス中毒にかけてしまったウイルスなのか。

 アメリカ・オンラインが12月始めインターネットの利用状況と生活への浸透ぶりを見るこの種のものとしては初めての本格的な調査の結果を発表した。通常自社の世論調査以外はほとんど報道しない全米の有力紙もこの調査結果に注目した。インターネットが広まっていること自体は既に誰しも認めるところだったが、これほど広く深く一般の人の生活に浸透していることを確認させられたのは始めてだったからである。

 主な項目で見ると、94%の人は従来の通信手段、つまり手紙や電話よりもインターネットの方が知人、友人、家族とのコミュニケーションが楽だと感じ、71%は買い物をする時まずインターネットで情報を集める。69%は子供がインターネットの知識を持つことが重要だと考え、47%は旅行にはラップトップを携えて出かけて旅先で電子メールをチェックしたり世の中の動きを知るのに利用している。もし砂漠の真ん中で立ち往生することになったら何が一番必要かという問いに、67%がインターネット、23%が電話、そして9%がテレビと答えた。娯楽、通信の手段として今やインターネットが圧倒的人気を誇るのである。インターネットの評価の高さを如実に示す驚くべき結果は、インターネットが20世紀最大の発明と答える人が79%もいることである。原子力でも人工衛星でもスペースシャトルでもないというのは、インターネットが自分の生活に目に見える形で大きな影響を与えたことを多くの人が実感している証拠である。ただし調査はインターネットの利用者だけが対象であった点は考慮しておかなければならない。

 

 インターネットは果たして人々の暮らしの中身を豊かにしたか。

 多くの人は情報の入手、例えば株価の動きや旅行情報が入手しやすくなり、銀行口座の管理や買い物が自宅で出来るなど、インターネットが仕事や生活に大いに貢献してくれるのを体験している。しかし反面肉声を無用とし、個性豊かな肉筆の味わいも捨てた電子メールによるコミュニケーションは家族のつながりを冷たいものにする危険は大いにある。伝言板代わりに便利に利用し始めたものの、やがて家族間でも機械的な通信が日常的になってしまえばどういうことになるか。また今アメリカのオフィスでは多くの人が未曾有の経験をしつつあることに気付き始めた。これまでは社内でのコミュニケーションを電話やメモ、あるいは直接会って行っていたが、今や仕事もプライベートなことも連絡はほとんど電子メールに取って代わられた。これによって同僚同士でも顔を合わせた時には話しがなくなって、トイレや廊下で会っても、「やー、元気?」と言い合うだけで終わってしまう。自分の連絡したこと、相手の言ったことなどすべて記録として残せる電子メールの利点は単なる便利さを超えたものであるが、職場でも肉声のコミュニケーションがどんどんなくなっていくのである。もっとも気難しい上司の顔を見ずに仕事上の連絡が出来るというのは社員の心の平和を保つという意味では貢献度は大であるが。

 

 インターネットはまた知る権利をめぐって裁判を通じた論争を巻き起こしている。一つはノースカロイナ州の裁判。子供がインターネットによってポルノにアクセスすることがないようにとラウデン郡の公立図書館が郡内全図書館のコンピューターにポルノ閲覧防止ソフトを入れた。ところがこれは一般の成人利用者に対して憲法に保証された知る権利を奪うものだとして裁判所は否の判決を下した。もう一つのカリフォルニア州の裁判では逆に、図書館のような公共の場でのコンピューターは子供がポルノなどの閲覧が出来ないようにしかるべき措置を加えるべきだと親が図書館に対策を求めている。アメリカ人の子供に対する性的刺激環境への気遣いは日本人の想像を超えるものがある。日本では一流新聞でも電車内の中吊り同様、露骨なポルノまがいの写真や言葉に溢れる週刊誌広告を子供の目に触れるのを承知で掲載しているが、これはアメリカでは考えられないことだ。最近日本の航空会社がやっと露骨な写真を載せた週刊誌を機内から排除したが、子供を持つアメリカ人からすれば、日本人の寛容さ、というよりも無神経さは大きな驚きだった。アメリカでは女性のヌード写真を掲載した雑誌を職場に放置したりしたらたちまちセクハラ訴訟が起こると覚悟した方がいい。fuyo.gif (13512 バイト)

 

 革命的利益をもたらせた抗生物質は同時に新たな耐性をもったウイルスをも生み出した。革命的利益をもたらしつつあるインターネットは果たしてどのような新種のウイルスを生み出すことになるか。ポルノビジネスがインターネットに大きなマーケットを築きつつあるのを見れば、ポルノ・ウイルスは静かにそして確実に広がっている。撲滅困難なウイルスはこれにとどまらないだろうと危惧する人は少なくない。

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