2012年(平成24年)9月10日号

No.550

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追悼録(465)

黒沢明の映画と「映明忌」

 

 映画監督・黒沢明が死んで9月6日で24年になる(享年88歳)。いまだにその人気が衰えない。映画好きの女子大生グループが命日の前日の5日鎌倉で「黒沢映画と平和を考える会」と「羅生門」の野外上映会を開くと新聞が報じていた。さらに「映明忌」を恒例の行事にしたいという。

 黒沢映画に限らず「映画」は面白い。それなりに感動を与えてくれる。高倉健主演の「あなたへ」には意外にも種田山頭火に心酔する車上荒らし役にビートタケシが出てくる。山頭火は「分け入っても分け入っても青い山」を詠む。「俳句は生命の燃焼する瞬間を写し撮ったものでなければならない」と山頭火は「主張した。映画とて同じであろう。主人公の妻を演じる田中裕子が歌う歌がなんと宮澤賢二の「星めぐりの歌」であった。私の好きな童謡である。

 「羅生門」は昭和25年製作・大映である。出演者・京マチ子。三船敏郎、森雅之、志村喬など。シナリオが橋本忍の「雌雄」を黒沢明と改作したもの。原作は芥川龍之介の「薮の中」。橋本忍はもともと姫路の自転車製造会社の課長で戦争中召集された。中国で結核になり傷病兵として内地の病院で入院中、伊丹万作の映画を見て感激,伊丹にシナリオを見てもらっていたという。伊丹の死後、弟子の佐伯清監督の紹介で黒沢監督を知る。人間の運命などと言うのはどう転ぶかわからない。

 映画「羅生門」では事件の真相はわからない。第一発見者、死者の霊、容疑者の盗賊とその妻、言うことがそれぞれに違う。最後に羅生門にうずくまる下手人がいう。「本当のことが言えねのが人間さ。人間って奴は、自分自身にさへ白状しないことがたくさんあらな」。こう考えてくると、裁判員裁判のあやふさを感じる。人は本当に人間を裁けるのかという疑問に突き当たる。

 「旅」と「漂泊」の違いは帰るところがあるのとないとの違いだとビートタケシのセリフにあるが山頭火の「ほろほろほろびゆくわたしの秋」「いつまでも死ねない爪を切る」を詠めば「旅」も「漂泊」であり「漂泊」も「旅」であり結局同じではないかと言う気がしてくる。どれが本当の解釈か知る人ぞ知る。

 「映明忌 人間不信 羅生門」悠々


(柳 路夫)