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「自然化社会」の366日
牧念人 悠々
著者・飛田八郎は今の時代が「自然化社会」へ動いているという。その著書「366日の自然」(藍書房・平成24年5月22日発行)の中で「この社会では自然を価値の中心に据え、ヒトは自然の活動やヒト社会のあり方のすべてが自然との関係の中で問い直される」といい、現在の物万能の価値観や生活様式を脱しない限り滅亡に向かうだけだと指摘する。自然の荒廃、自然の猛威、四季の巡りを考えればもっともな意見である。
そこで作者は「自然と語り、自然と遊び、自然と学び自然を考える」として2003年から2010年までの8年間に、ぶらぶら歩きしながら目にした自然をメモした。本書に出てくる植物は378種、動物は167種。ぶらぶら歩きの範囲は東京湾の海岸から大体十数キロの範囲、地名にすると船橋、市川全域と松戸、鎌ヶ谷、浦安、習志野、千葉の一部である。まことに読み応えがする。しかもすこぶる面白い。
たとへば、市川市北東部の小道でタヌキと遭遇する。大都市の近郊にタヌキがいるとは意外であるし、新鮮な驚きでもある。しかもこの付近には親子タヌキが6匹いて付近の人が置いたウインナーソセージを食べており、ヒトと動物の共存の輪ができている(6月27日の項)。さらに8月27日の項にもタヌキの「ため糞」について記している。
谷津干潟でコブハクチョウを見る(5月29日の項)。飼われていたコブハクチョウが各地で野生化しているらしい。その日午後一時頃この鳥を見つけた第一発見者が3時間以上もその現場にいて見続けていた事実に私は感心する。野鳥の愛好家なのであろう。向島百花園と台東区橋場のアセビの話が出てくる(2月3日の項)。この二カ所のアセビが毎年早い時期に花を咲かせる。アセビはもともと岩の多い土地に生える樹木であった。その証拠として万葉集の歌を引用する。いまや公園や庭に植えられても昔を忘れずに長い時間をかけて蕾みを育てるという。そのように思うと、「磯影の見ゆる池水照るまでに咲ける馬酔木の散らまく惜しも」(甘南備伊香真人)の古歌も味わい深く感じられる。悲劇の人・大津皇子の姉・大伯皇女が詠んだ歌にも出てくる。「磯の上に生ふる馬酔木をたをらめど見すべき君がありといはなくに」。万葉学者・犬養孝さんは『馬酔木の花はスズランようで清楚な花。弟君を思う大伯皇女の心を語るかのような花だ」と説明する。
大晦日(2010年12月31日の項)に北米原産、大正時代に渡来したヒメジョオンを県道で見つける。花期は夏から秋である。大晦日に咲くのは特異な現象である。さらにこの日医院の脇に春から秋の花期のトキワハゼを、住宅の溝で花期が夏秋というムシトリナデシコを発見。「ヒトが作った暦とは関係なしに植物はいつでも花を咲かせる」のに感嘆する。そして「大地がある限り、水が流れる限り、日が照る限り、地上に生命が途絶えることはない」と自然を賛歌してやまない。 |
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