安全地帯(347)
−市ヶ谷 一郎−
指揮官の資質
昭和20(1945)年の終戦までは、日本陸軍は、軍事が次第に向上していくのを多年の経験による前例に照らし合わせて、その行動の判断基準として勅命(天皇の命令)による軍令第十九号『作戦要務令』があった。そのなかの最初に「綱領(こうりょう)」として次のことが記されている。現代でも非常に参考になり、通用することが多々あるので全文を当時のまま掲載する。
第十 指揮官ハ軍隊指揮ノ中枢ニシテ又団結ノ核心ナリ故ニ常時熾烈(しれつ)ナル責任観念及鞏固(きょうこ)ナル意志ヲ以テ其ノ職責ヲ遂行スルト共ニ高邁ナル徳性ヲ備ヘ部下ト苦楽ヲ倶(とも)ニシ率先(そっせん)躬行(きゅうこう)軍隊ノ儀表(ぎひょう)トシテ其ノ尊信ヲ受ケ剣電弾雨ノ間ニ立チテ勇猛沈着部下ヲシテ仰ギテ富嶽(ふがく)ノ重キヲ感ゼシメザルベカラズ
為サザルト遅疑スルトハ指揮官ノ最モ戒ムベキ所トス是(これ)此ノ両者ノ軍隊ヲ危殆(きたい)ニ陥ラシムルコト其ノ方法ヲ誤ルヨリモ更ニ甚ダシキモノアレバナリ
(要約)指揮官は、軍隊を指図し、団結させる大切な中心である。いつも激しく盛んな責任を重んずる心と、強く堅い意志を持つことである。その務めを確実に果たし、気高く優れた道徳をわきまえた性格を備え、部下と苦楽を共にして率先して実行し、軍隊の手本として、尊敬と信頼を受け、激しい戦いの中で部下が見ても、強く勇ましく、落ち着きと冷静を保ち、富士山のようだと感じさせる指揮官でなければいけない。(「尊敬信頼」は愛情と思いやり絆が必要)
実行しないこと、ぐずぐずしていることは、指揮官が最も戒めなければいけないことである。これは、軍隊を危うくする一番悪いやり方なのである。
『作戦要務令』という冊子は、護国のために命をささげた多数の英霊も含め、先輩たちの尊い血と汗の結晶で作られた軍人必携の書であった。
『長』として要職にある方々は、「軍隊」を「政治」に、「企業」に置き換えてお考えを。心から願うや切。 わが日本をいかにせん!
註:前号『茶説』で作戦要務令を引用して「東京電力第一原発事故中間報告」を批判したが市ヶ谷一郎君が『作戦要務令』の解釈をしてくれた。 (信濃太郎)
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