1998年(平成10年)11月20日(旬刊)

No.58

銀座一丁目新聞

 

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茶説

Jリーグよ早く泥の中より通り抜けよ

牧念人 悠々

 横浜フリューゲスの横浜マリノスへの吸収合併に端を発して、ベルディ川崎の親会社、読売新聞から日本テレビへの株式の全面譲渡とJリーグの前途は多難である。とりわけ、横浜Fのサポーターたちは、フロントと徹夜の交渉を持ち、「合併の白紙撤回」、「下部リーグでもチーム名を残せ」と主張したり、34万人の存続の署名簿をJリーグ事務局に持参し、また全日空、横浜市役所を訊ねたりして、存続を訴えている。

 サポーターたちの怒りとその積極的な行動は、球団側も川渕チェアマンも予想しなかったであろう。

 Jリーグが発足時に掲げた「地域に密着した欧米型スポーツクラブ」の理想に照らせば、横浜Mと横浜Fの吸収合併は余りにも抜打ち的で、サポーターの存在を無視したやり方である。「地域密着型」という理想など聞いて呆れる。川渕チェアマンは、日ごろ読売新聞の渡辺恒雄社長の「お金を出している親会社の企業名をPRさせろ」という主張を「地域密着」の理想のもとに拒否してきたではないか。背に腹はかえられないとでもいうのであろうか。

 地域密着といいながら、地方自治体も地元も莫大な金を出せるわけがない。それにもかかわらず、億を越えるお金を出して外国選手、監督を招き、有望な若手日本選手にも破格の待遇をしているのだ。それを支えているのは、球団の親会社である。球団経営は、今後ますますきびしくなってうくであろう。

 前期優勝の盤田にしろ、後期優勝の鹿島にしろ、毎年10億円近い赤字を出しているといわれる。

 かって、夏の都市対抗野球大会がそうであった。各都市の野球愛好者がクラブをつくり、都市の代表となり、各都市のクラブ対抗の野球大会を開くのを理想とした。クラブ代表が出場したこともあったが、長続きしなかった。最大の原因はクラブ球団の資金のやりくりがつかなかったのである。だから、都市対抗野球大会の出場チームはすべて企業チームである。

 Jリーグにしても「クラブ運営は地域、住民、企業が三位一体となって当る」ことになっている。現実は企業中心といってもいいであろう。

 この現実を踏まえながら、理想とする「地域密着型」のクラブづくりをめざし努力すべきである。

 『英語には「マドリング・スルー」という言葉がある。これを直訳すれば“泥の中を通り抜ける”ということだが、遠くの見通しはつかないなかでも、積極的に当面の困難に立ち向かいそれを切り抜けて、大きな成果につなげるという意味に用いられる』(中西輝政著「なぜ国家は衰亡するのか」より)

 Jリーグは、いま泥の中である。積極的に問題と立ち向かわなければならない。

 たとえば、ドイツのサッカーチームのクラブに出資者・企業が130社を数えるところがある。サポーターたちも怒るより一歩踏み出して、出資者集めをしてみたらどうか。

 すぐには実現できそうにもないが、現在クラブに資本、資金を出しても企業には税制上の恩典がない。地域社会に貢献し、地域コミュニケーションを促進するということで税制上の措置を講じてもおかしくないはずである。

 2002年の日韓共催のサッカーワールドカップを成功させる意味でもJリーグは頑張って欲しい。

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