2010年(平成23年)3月20日号

No.498

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花ある風景(413)

並木 徹

井上ひさしの「日本人のへそ」に感嘆する

 

 
 井上ひさしが1969年(昭和44年)34歳の時に書きおろした「日本人のへそ」を見る(3月9日・シアターコクーン・3月27日まで上演)。実に面白く拝見した。吃音症にはミュージカルが一番と提唱するアメリカ帰りの大学教授が仕立てた浅草ストリップの花、ヘレン天津の物語である。最近見た映画「英国王のスピーチ」も吃音に悩むジョージ6世を無名のオーストラリア人が独特の治療で直すストーリーであった。吃音症は精神的病気である。それぞれの心の傷が原因である。自分に関係のない言葉はどもらない。歌を歌うときはどもらない。小学生の友人でどもる子がいたが、歌はとても上手であったのを思い出す。

 この作品は井上ひさしにとって演劇界デビュー作。井上一流の批判と言葉の巧みさと笑いが凝縮されており、一躍その名を天下に知らしめた。

 幕開きは日本語の原点である「あいうえお」から始まる。むかしあるところに「あいうえ王」がいましたとさ・・・とくる。うまい。吃音劇にことよせて農家から集団就職した少女が自分の肉体を武器に上りつめ世の様々な上部構造の醜さを暴いてゆく。集団就職は昭和32年に始まった言葉。労働省の政策により地方の中卒者を都会で就職させようと集団就職が活発化した。内閣は岸信介首相時代が昭和32年2月、第二次岸内閣が昭和33年6月から、次いで池田勇人内閣が昭和33年7月からはじまる。少女が働く浅草は昭和30年代の始まりはストリップ全盛時代であった。舞台で演じられる女優達のストリパーの踊りは見事。エロを十分に発散する。主人公の少女は職業を転々と変え。男も転々として最後は政治家の愛人に収まるかに思えたところで政治家が何者かに殺されかける。ここで推理劇が始まる。どんでんかえしがくる。ヘレン天津が愛していた男はピアニストであった。

 今回美術を担当した妹尾河童さんが座右の銘としている井上さんの「むずかしいことを やさしく やさしいことを ふかく ふかいことを ゆかいに」をまさに実現して見せたようなお芝居であった。