安全地帯(299)
−信濃 太郎−
セイクリア・ピアノコンサートを聴く
ピアニスト、関晴子さんのお弟子の会「セイクリア会」の9人によるピアノコンサート「ロマンの刻」を聴く(10月3日・東京・王子ホール)。会が発足して36年がたつ。「セイクリア」とは誠実・成長・精神・生活・晴子の「セイ」、そしてCLEATを合わせているという。それぞれお好みのドレスに身にまとい鍵盤をたたく姿に各自の個性がにじみ出ていた。共通するのは関さんの教えを忠実に守り、誠実に、礼儀が正しかったこと。ぎこちなく感じられた人もいた。やや空席が見られたのが残念であった。関さんの人柄を考えればもう少し私が宣伝すればよかったと、悔やまれる。山田隆三君が生きておれば気をきかして何とかしただろうとも思った。
演奏の曲はハイドン、シューベルト、リスト、シューマン、チャイコフスキー、ショパンなどであった。私の心に響いたのは須田美穂さんのリスト;「ハンガリー狂詩曲」12番、上法奏さんのショパン;ポロネーズ第7番 変イ長調作品61「幻想ポロネーズ」、松本絵里子さんのショパン;スケルツォ 第4番 ホ長調 作品54であった。
リストは20のハンガリー狂詩曲集を作る。黒の衣装の須田さんはハンガリー民謡の野生・憂鬱・悲哀を豊かな色彩で包んだ「12番」を巧みに奏でる。私が馴染んでいるのは「2番」である。映画『オーケストラの少女』(ヘンリー・コスター監督・アメリカ・昭和12年製作。外国映画ベスト2位)に使われたからである。ハンガリー狂詩曲にひかれるのは少年期をハルピンで過ごし白系ロシア人、ユダヤ人等流浪の民族に肌で接したからであろうか。
緑のドレスの上法さんは表情豊かであった。ショパン:ポロネーず 第7番 変イ長調 作品61『幻想ポロネーズ』はショパン晩年の傑作である。瞑想・沈痛・静寂の調べに従って上法さんの表情が引き締まる。鍵盤が心地よく響く。
赤の衣装をまとった松本さんの鍵盤さばきは優雅であった。ショパンはピアノの王者。同時にポーランドの憂国の詩人でもあった。死ぬ7年前の作品。ショッパンのスケルツォ(冗談・気まぐれ)は沈鬱な感じがするという。松本さんの演奏を聴いているとむしろ明るい希望を感じた。コンサートの最後に相応しい曲目であったと思った。秋の日曜日、ピアノを聞いて過ごすのはまことに贅沢であった。関晴子さんに感謝のほかない。
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