安全地帯(287)
−信濃 太郎−
海兵隊の新兵訓練の映画に思う
藤本幸久監督の映画「ONE SHOTO ONE KILL」−兵士になるということーを見る(6月9日・日本記者クラブの試写会)。アメリカのサウスカロナイ州パリスアスアイランドに海兵隊新兵訓練所がある。ここで海兵隊員になるための基礎訓練を受ける。武器の扱い方、体力づくりはもちろんのこと「命令には疑問を持たずに直ちに正確に従う」ようしつけられる。また常に大声を張り上げるよう仕向けられる。訓練機関は12週間。毎週500人から700人の新兵がやってくる。卒業すれば海兵隊の第一基地沖縄など3ヶ所の部隊に配属される。「ONE SHOTO ONE KILL」は一撃必殺という海兵隊の合言葉である。映画は新兵さんたちの猛訓練の模様をドキュメンタリーで描く。
インタービューに答えてさまざまな入隊の動機が語られる。「自分を変えて世界を変えたい」「自分のキャリアと世界平和のために」というものもいれば「自分を充実させたい」「自分を鍛えたい」というものもいる。変わったところでは「世界を見てみたい」「英語の勉強をしたい」というものもあった。初めは入隊を泣いていさめた母親もその動機を聞いて逆に励ますようになる。日本の若者にもこのような機会を与えたいものだ。
射撃訓練はすざましい。「すべての海兵隊員は、ライフルマンたれ」という。徹底してしごかれる。昔,,38歩兵銃の引き金は「夜、霜の降るよう静かに引け」と教わった。彼らは反射的に体が動くよう何度も何度も訓練する。卒業までに500ヤード先の的が当たるようになる。
格闘技の訓練もすごい。「自分が傷ついても相手を生かして返すな。無傷で返すな」と教わる。下から殴る場合,拳を頭以上にあげるなという。その方が相手の与える打撃が強い。銃剣の訓練ではタイヤの人形を刺す、殴りつける、きりつける。新兵さんの表情は鬼のようである。卒業演習では実戦を想定した行軍、射撃、武術などを行う。顔に迷彩を施し厳しい兵士の顔になる。卒業後は歩兵学校などでさらに数ヶ月の訓練を受ける。多くの新兵さんが歩兵に行くと答えていた。もちろん脱落者もいる。男性では10%、女性では15%を数える。
藤本監督はこの映画を通して「人は人を殺せるようには出来ていない。ではどうすれば普通の若者が戦場で人を殺せるようになるか」と、反戦の意味合いをこめて訴えたかったのだと思う。だが、軍拡に狂奔する国もあれば核兵器を準備する国も存在する。単に人を殺すのではなく自国を守り、自国の国民を守るために人殺しをせざるを得ない場合もある。「兵を養うのは百年の計」といわれる所以である。
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