花ある風景(386)
並木 徹
シネマ歌舞伎を堪能する
さる日、「シネマ歌舞伎」を2本見る(6月15日・東劇)。映画ながら色彩美、様式美、歌舞伎独特の所作に圧倒され、その展開を追いながら知的刺激を受ける。1本目は「蜘蛛の拍子舞」―花山院空御所の場である。舞台は花山天皇(かざんてんのう・984年―986年)が出家して主を失った空御所。藤原道長が摂政となり摂関政治全盛を誇る27年前のころである。中納言藤原兼通が兄の大納言藤原兼家を越えて関白内大臣になり、花山天皇を出家させる。花山天皇の在位はわずか2年であった。この御所に物の怪が出るというので退治の命を受けて源頼光は四天王とともに逗留する。物の怪のせいか病を得た頼光(尾上菊之助)を家来の渡辺綱(尾上松縁)、碓井貞光(中村萬太郎),卜部季武(尾上右近)が警固する。そこへ蜘蛛の化身白拍子が現れる。見事な踊りを見せる。問われてその素性を名乗る。刀鍛冶の三条小鍛冶宗近の娘妻菊(坂東玉三郎)だという。三条宗近と言えば名工である。桓武天皇の延暦13年(794年)都を京都に移して以来200年みるべき刀工が出なかった。そこへ現れたのが京三条に住む宗近であった。花山天皇の跡を継いだ一条天皇の永延(987年)のころであった。三条派には吉家,兼永、国永,有成,近村等の名工が出た。太刀は細身で越し反り高く、切っ先小さく、優美である。刃文は小乱でにおい深く小沸つき、僅かに焼落しをみるという。妻菊は頼光らが質問する名剣の故事来歴をすべてこたえる。警固の3人は拍子に乗って「拍子舞」を踊る。さらに源氏に伝わる名刃膝丸を前に置いて刀鍛冶のふりを舞う。灯下に照らされた妻菊の影から蜘蛛の化身と見破り切り捨てようとするが千筋の糸を繰り出して逃げられてしまう。さらに女郎蜘蛛の精と姿を変えた妻菊が現れる。源頼光主従は坂田金時(坂東三津五郎)の助けを得てみごと蜘蛛の精を打ち果たす。美しい妻菊の「拍子舞」に我を忘れてしまう。世の中にはうまいことを並べて人をだまし世に出ようとする者もいる。このシネマ歌舞伎は「美しいものにハトゲがある」注意せよとの寓意とも受け取れる。いよいよ参院選挙突入である。飾り立てた各党のマニフエストには識者の助けも借りて対処したほうが良いとも受け取れた。
2本目は「身替座禅」。常磐津と長唄の掛け合いによる舞踊劇である。浮気な亭主と焼き餅焼の女房を面白く描く。右京の勘三郎と玉の井の三津五郎のユーモラスな所作に笑いが起きる。勘三郎の甘ったれた振る舞いによく浮気亭主ぶりが出ていた。“浮気は神の過失“外国で上映しても好評を博すること間違いない。
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