2010年(平成22年)4月10日号

No.464

銀座一丁目新聞

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安全地帯(280)

信濃 太郎

たかんなや孫七人の育ちけり   瞳夢
 

『銀座俳句道場』の同人瞳夢さん(本名鳥取祥子)からその著書『越智の草子』(昭和19年4月1日発行)をいただいた。ページ数154頁、自分の人生を振り返ったエッセイである。軽いタッチで書かれており、30余枚の挿絵がユーモラスな感じを与えてほほえましい。俳句も上手な方で『俳句道場』でもしばしば入賞している。『天賞』の句『鳥一羽つついておりぬ秋の川』(平成18年10月の兼題)はすばらしいものであった。
 著書によれば、お父さんは20年ほどアメリカ暮らしをされて昭和のはじめに郷里に引揚げてこられた。瞳夢さんが母親の胎内にいるときは太平洋を航海中であった。時化に合い”舟が空を飛んだ”おかげで『たびたび頭痛を訴え、季節の変わり目に必ず風邪を引く』子供になったという。
 自分の半生を本にしたきっかけは、孫の一人が8月6日は広島に原爆が落ちた日であるのを知らなかったからである。マンドリン好きの叔父が心行くまでマンドリンをひいて出征、戦死する話や憲兵が案内も乞わず家に上がり込み短波を聞いていないかどうかを調べたりする話、戦争の末期に著者に女子挺身隊として徴用令が来た話、さらには大東亜戦争で英軍の拠点であったシンガポールの攻略戦で勝利した山下奉文大将を紹介し、戦後いち早く戦犯として処刑された。法の名を借りた復讐と憎しみのリンチであったことなどを分かりやすく紹介している。
 こんな話もある。コオロギは何を食べますかT、米。2、ナスや、キュウリ、3、お菓子という理科のテストに三女が3に丸をつけたら×であった。この答に三女は不満を漏らした。自分が飼っていたコオロギはケーキを食べたからである。さらに大学を出て就職試験を受けて合格したのに会社から「お宅は生活にお困りではないとお見受けしますので他の方に譲ってください」と断らざるをえないようになってしまったという話を書く。世の中はいつも杓子定規で不合理である。私が聞いた話である。「氷が解けたらどうなる」の設問にある子供が『春になる』と答えを書いたそうだ。正解は「水になる」である。私がこの子供に素晴らしい感性を感じる。
 著者は海外旅行をする。有名なお城を見学して感あり。
 「白鳥城広場に汗の大阪弁」
 また高齢になり、人並みに病気をする。
 「麻酔覚めベットに後の月白し」
 「枯れ葎六万両の祝のあり」
 万両が6本咲いていたというので「六万両」というのはユーモアがあって面白い。瞳夢さんはなかなか洒脱な人である。
 いただいた本に添えられていた手紙には「桜の季節になりました。当地もやがて桜色に染まることでしょう。平和の尊さを実感している今日この頃です」とあった。