2006年(平成18年)7月20日号

No.330

銀座一丁目新聞

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追悼録(245)

「先輩江口未人さんを偲ぶ」

  毎日新聞の社報で元英文局長の江口未人さんが亡くなられたのを知った(5月21日・享年83歳)。毎日新聞では珍しく商才のある人であった。定年後、自分で会社を作られリクルートの雑誌を出版されたり,リトログラフの絵を販売されたりしておられた。スポニチの社長時代、会社で展示即売会を開きお手伝いをした。知り合ったのはロッキード事件の最中、私が社会部長の時であった。大学の同級生で通産省の局長をしていたが、局長時代、田中角栄大臣と喧嘩して役所を辞めた硬骨漢がいる。話を聞いてみないかということであった。社会部員に元局長に取材させると、田中大臣が盆暮れに局長クラスに現金をばら撒いた。それをつき返した局長が左遷されたなど興味ある話がたくさん聞けた。ロ事件中、折に触れて元局長から貴重な情報を得た。亡き江口さんのおかげである。
 今年はロ事件が起きて30年である。7月27日は田中角栄前首相が逮捕された日である。毎日新聞のみがその逮捕をほのめかす記事をその日の朝刊一面に報じた。「検察,重大決意へ 高官逮捕は目前」。正直に言えば「田中逮捕」は知らなかった。検察の動きだけを察知した。後で聞いた話では毎日新聞が一行でも田中元首相の名前を出したらその朝の逮捕を延ばしたという。新井直之さんは「マスコミ日誌」(みき書房)で書く。「田中逮捕前日、ある社は十八箇所二十二人で張り込んだのに毎日は四箇所四人に過ぎない。陸士卒業(これは誤り、在学中)の職業軍人であった牧内社会部長は旧軍隊の作戦要務令を引用して戦闘のコツは必勝を期すべき地点に兵力を配置すればいいのだ、と書いているがこれは負け惜しみというべきものであって、ほんとうは毎日の経営不振から取材費なども節約しなければならず、地方支局から人手を動員できなかったのであろう。そうは書けない部長の辛さだ」。毎日新聞のロ事件報道を高く評価し、このように同情してくれた新井直之さんも既に故人となった。ウォーターゲート事件を追い続けた「ワシントン・ポスト」の若い二人の記者はその取材記録「大統領の陰謀」を書き、それはベストセラーになり映画化された。日本版「大統領の陰謀」は「毎日新聞ロッキード取材全行動」(講談社)として出版され、テレビドラマ化された。牧内社会部長役は本田博太郎がなった。何故かそのテレビドラマはいまだに放映されない。「やむをえない事情」が早く解消されることを祈ってやまない。

(柳 路夫)

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